15年目の小さな試練
 その後、おばさんと一緒に後部座席に乗ったハルちゃんは、家に着いても目を覚まさなかった。

 約十分後に到着した牧村家で、俺はハルちゃんを抱き上げて寝室のベッドまで運んだ。
 そこから先は、おばさんと沙代さんが動き回り、俺は沙代さんが出してきた点滴台をベッドサイドに運んだり、ハルちゃんの荷物を机の上に移動してみたり、せめて邪魔にならないようにと動くだけ。

 おばさんが聴診器でハルちゃんの胸の音を聴き、脈を測るのを見るのも初めてだった。

 まるで入院している時のように、ハルちゃんは酸素マスクと点滴、それから酸素濃度計を着けられて静かに眠っていた。念のためにと、枕元には嘔吐に備えて容器が置かれている。

 改めて、ハルちゃんが結構な重病人なのだと実感する。

 一段落したところで、おばさんは俺に向き直って言った。

「晃太くん、今日は本当にありがとう。すごく助かった」

「あ、いえ、何も大したことはしてないです」

 本当に、俺は何もしていない。

 ハルちゃんを医務室に運んでくれたのは、ハルちゃんの同級生だし。何より、具合が悪くなる直前の昼休み、一緒にいたのに、俺はハルちゃんの体調不良に全く気が付かなかった。

 俺がやったのは、ハルちゃんの様子を見に行き、沙代さんに電話をした事と、ハルちゃんを抱いて運んだ事だけだ。それだって、俺がいなければ医務室の先生がやってくれたのだろう。

「むしろ、叶太に頼まれていたのに、ハルちゃんが調子悪いことに全然気付けなくて、本当に済みませんでした」

「晃太くん、何、それ気にしてたの?」

 おばさんは呆気にとられたように目を丸くして俺を見た。

「ムリムリ。そんなの分かるの、叶太くんだけだから!」

「……え?」
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