15年目の小さな試練
「今回は昼間だったけど、こういう不調は疲れがたまる夜に出る事が多いみたい。だけどね、具合が悪くなる前にそれに気付ける人なんていないから。沙代さんだって分からないんだよ?」

 叶太が婿に来るまで、家では沙代さんが一番ハルちゃんの近くにいた。その沙代さんが気付けないってことは、おばさんにもおじさんにも分からないって事だろう。

「てか、叶太くんの場合、疲れてるなって思って早めにストップかけるって感じなんだよね。

 だから、そのまま無理させてたらどうなったかは分からない。

 何事もなかったかも知れないし、叶太くんのおかげで具合が悪くならなかったのかも知れない。こればっかりは、分からないんだよね」

 おばさんはハルちゃんの頭を優しく、愛おし気になでると、よいしょ、と枕元の椅子から立ち上がった。

「よかったら、お茶でもどう? 入れるのは沙代さんだから味の保証はするよ?」

 その言葉に思わず吹き出しつつ、俺は

「ぜひ」

 と答え、おばさんと一緒にハルちゃんと叶太の寝室を後にした。



「正直、叶太くんには甘えすぎてたかなって思ってるんだよね」

 おばさんは豆をひくところから入れたという香り高いコーヒーを口にし、小さくため息を吐いた。先日の紅茶に引き続き、今日のコーヒーもすごく美味しかった。

「甘えてますか? ハルちゃんがそんな風に叶太にべったり甘えるイメージ、ないけど」

「ああ、そうじゃなくて。陽菜は甘えないんだけどね、私たちが」

 俺が何のことか分からずにいると、おばさんは説明してくれた。
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