15年目の小さな試練
「それで、陽菜の具合が急に悪くなって、叶太くんがナースコールしてくれたんだけど、看護師が駆けつけた時にはもう心室細動を起こしてて、すぐにドクターが呼ばれて急きょその場で心肺蘇生が始まって」

 おばさんは当時の状況を思い出したのか、眉根を寄せて厳しい顔をした。

「ちょっと冗談じゃないくらい慌ただしくなっちゃって、誰も叶太くんがその場にいる事に気付かなかったの」

 あの冬の日の、叶太の焦燥ぶりを思い出す。まだ十三歳だ。衝撃は計り知れなかっただろう。

「ほら、あの部屋広いでしょ? 叶太くん、邪魔にならないように端っこに移動してて。私と院長もすぐに駆けつけたんだけど、叶太くんには気付きもしなかった」

 おばさんは深い深いため息を吐いた。

「一度、心拍が戻って、ホッとした空気が流れた次の瞬間、ホント十秒かそこらしか経たない間に、もう一度、心臓が止まってね」

 俺はもう言葉もなく、おばさんの話を聞く。

「それで、また心臓マッサージと電気ショックを何度か繰り返して、ようやく陽菜は息を吹き返した」

 息を吹き返すといわれるくらいの状態……。医学についてはド素人でも、事の重大さは考えるまでもなく分かる。

 そして、そんな一部始終を目の当たりにした叶太。

「そのまま、そこで呼吸器を付けて、ICUに運ぶために部屋を出たところで、後片付けに残った看護師がようやく叶太くんの存在に気が付いて、慌てて叶太くんを外に出した。

 まだ、陽菜の容態は結構深刻で、私も院長も陽菜に付いて部屋を出たから、その事は全く知らなかった。

 随分、後になって、陽菜がいつもの部屋に戻れるくらいになってから、その看護師から忘れていて申し訳なかったと、叶太くんの事、報告を受けたのだけど」
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