15年目の小さな試練
 おばさんはふとハルちゃんの部屋のドアに目をやった。

「それから慌てて、あの時は怖い思いをさせて申し訳なかったと、叶太くんに話をしたのね。トラウマとかPTSDみたいになっているといけないから、ちゃんとケアしようと思って」

 ……確かに、それはトラウマになりそうだ。

 世界一大切にしている女の子が、急に具合が悪くなって、自分の目の前で心臓が止まって、心肺蘇生を受けているなんて。俺にはまだそういう子はいないけど、想像しただけで胸がつぶれそうだ。

「でもね、叶太くん、すごいんだよね」

「ん? 叶太がすごい?」

「そう。叶太くん、陽菜がICUにいる間に、消防署に行って救命救急の講習受けてきたって言うの」

「……え?」

「心肺蘇生法も、AEDの使い方も覚えてきたって言うんだよ」

「……叶太が?」

「そう。しかも、消防署の人に頼み込んで、何回も通って、こんな時はどうするとか、もしこうだったらどうするとかも教えてもらったらしいよ」

 おばさんは呆気にとられている俺を見て、にやっと笑った。

「驚くでしょ?」

「……はい」

 いやホント、我が弟ながら末恐ろしい徹底ぶりだ。

「実のところ、ここに医者がいるのに、なんでわざわざ消防署行くかなぁとは思ったんだけど。まあ病院じゃ講習はやってないからね、それは置いといて。

 そんな訳で、叶太くんのタフさには驚いたんだけど、やっぱり、一種のトラウマになったみたいで」

「……トラウマ、ですか?」

 今一つ、話がつながらない。

「叶太くん、それ以来、ものすご~く過保護になったの」

「ああ、なるほど!」

 そう来るか。
< 123 / 341 >

この作品をシェア

pagetop