15年目の小さな試練
「確かに、それまでも叶太の世界の中心はハルちゃんだったけど、それ以降は叶太の世界自体がハルちゃんで埋め尽くされた感じですね!」

 そう。中一の冬を境に、叶太の行動が随分変わった。

 中高生で彼女ができたら、彼女に夢中になるのも普通のことだと思って気にもしていなかったけど、なるほどだ。

「ははは。面白いこと言うね」

「いえでも、ホント、そんな感じでしたよ。あいつの目にはハルちゃんしか映ってないのかと思うくらいで」

 俺の言葉を聞いて、おばさんは面白そうに笑った。

「……そっか。でもね、叶太くんには申し訳ないと思ってる」

「なんでですか?」

 確かに、中学一年生が目撃するには衝撃的すぎる場面だったと思う。だけど、最初から叶太はハルちゃん一筋だったし、結果的に二人は結ばれて、晴れて夫婦にまでなった。

 だから、それはそれで、よかったのではないだろうか?

「今回の叶太くんの不調……こんな時期にインフルエンザ拾ってきて、三日も熱が下がらないとか、陽菜のことで気を張りすぎた疲れからだと思う」

「でもまあ、あいつの頭の中はハルちゃんでいっぱいだから」

「だけど、四六時中、陽菜の具合ばっかり気にしてたら、心が安まる暇がないでしょう」

「あ…そうか」

「そうなの。叶太くんが陽菜を好きで好きで仕方なくて、陽菜と何して遊ぼうとか、陽菜を抱きしめたいとか、そんな事を考えてるなら、別にいいの。

 問題は、そう言うことを考える合間に、ずーっと、寝ている間まで陽菜の体調に問題ないかと気を配り続けてるところ」

「……それは、疲れそうですね」

「でしょ?」

 おばさんは不意に真顔になり、視線を落とした。

「でもね、そんな叶太くんが側にいるから、私たちも陽菜を自由にさせてあげられているってところもあって……」

 おばさんの言葉に、何日か前に思い浮かんだ疑問を投げかけてみた。
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