15年目の小さな試練
「もしかして、ハルちゃんが大学に通えているのって、叶太が一緒だからですか?」

 おばさんと視線がガッツリ合った。

「……そうだね。叶太くんが一緒じゃなかったら、迷ったかも知れないね」

「迷った?」

「去年の手術のおかげで、大学に通うのを禁止するほどには状態は悪くない。だけど、無理をすれば、すぐに通えなくなるのは間違いなくて。

 大学の勉強は高校までとは違うし、授業も長くて教室移動も多いし、課題だって相当量出るよね?」

 確かに、90分授業で毎回教室を移動するのは、健康な人間でも疲れるものだ。しかも課題もレポートも本当にかなりハード。

 おばさんはここで一つ息を吐いた。

「じゃあ、体調が悪くなってから辞めさせるくらいなら、最初から行かせない方がいいのかって思うでしょ?

 だけど、進学率100%の高校で、学年でもトップクラスの成績を取っているのに、あの子だけ大学に行かせないとか、考えられないもの」

 確かに、杜倉学園の高等部で進学しないやつなんて聞いたことがない。例外は、パティシエになるんだと言って、フランスに行ってしまった変わり種くらいか?

 そして、おばさんは大きなため息を吐く。

「でもね、陽菜には叶太くんがいたでしょ? 叶太くんなら、陽菜が無理するなんて絶対に許さないだろうし、叶太くんがいるなら、通いきれるかもって思ったのは確か。

 結果、叶太くんが無理をして、体調崩して……。本当に、私たち、叶太くんに甘えすぎだよね。なんか、申し訳なくって」

 おばさんはテーブルから湯飲みをとって、ごくごくと飲み干した。

 いつの間にか、俺の前にもお茶が置かれていて、俺も湯飲みに手を伸ばす。ゴクリと飲むと、程よくぬるくなっていたので、おばさん同様に一気に飲み干した。
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