15年目の小さな試練
 穏やかに見えて実は鋭いハルちゃんの言葉を受けて、他のメンバーが

「なるほどね~」

「面白いね。じゃ、そしたらさ……」

 などと言い、その後、議論が深まって行く。

 ハルちゃんは本当に、……本当の意味で頭が良いのだというのがよく分かった。

 きっと、この程度の課題、ハルちゃんは一人で最適解を出せている。だけど、決してそれを表には出さない。それだけでもすごいと思うのに、誰かが言う摩訶不思議な推論だったり、的外れな言葉も真摯に聞いて検討材料にする。

 人の話をしっかり聴いた上で、誰かの言葉を引用し取り入れて話すから、メンバーの誰もがハルちゃんの言葉を素直に受け入れていた。

「先生!」

 声をかけられて、

「はーい。ちょっと待っててね」

 と呼ばれたグループへと向かう。

 ハルちゃんのグループからは一度も声がかからなかった。多分、ハルちゃんがいれはサポーターはいらないだろう。

「先生、これって……」

 本当は先生じゃないんだけどね。だけど、助手に入ると先生と呼ばれてしまう。

「ああ、ここはね……」

 入学してすぐの5月なんて普通はこのレベルで質問入るよな、と思いながら、質問してきた男子学生ににこやかに答えた。


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