秋の魔法
僕は昔の夢を見ていた。それは僕が中学3年生の秋頃、1人の先輩に会った日の話――。
僕はひたすら通学路を走っていた。補習のせいで帰りが遅くなったのだ。早く帰らないと、父が帰ってくる時間に間に合わない。父が帰ってくる時間までに帰らなければ、父からの暴力が酷くなってしまうのだ。
僕はスピードを落として角を曲がり、また加速する。目の前を歩く少年を追い越そう――とした時、僕は石に足を引っ掛け、思い切り目の前を歩く少年にぶつかった。そのまま僕たちは地面に倒れ込む。
「いった~…あ、大丈夫!?」
僕が慌てて立ち上がると、そう言いながら少年が立ち上がった。深い青い目が印象の男の子だ。制服を見る限り、魔法学校の生徒だと分かる。
「大丈夫です。すみません…」
僕は頭を下げた。少年は「気にしないで」と言う。
「…君、急いでるんじゃ?」
少年の問いかけに僕はハッと顔を上げた。
「…僕が君の家まで魔法で送ってこうか?」
先輩の問いかけに僕は固まった。先輩は「遠慮は要らないよ」とクスクス笑う。
ここからだと多分、時間に間に合わないだろう。僕は「…本当に良いんですか?」と問いかける。
「良いよ」と微笑んだ先輩は、僕の腕を掴む。ふわり、僕の体が浮いた。
「家の場所、教えて」
「…あの公園の近くです」
僕が指を指すと、先輩は一気に加速した。あっという間に家の近くにある公園に着いた。僕の家から学校まで徒歩で20分はかかる。自転車でも良いのだけど、僕の家にはそんな物は無い。
「ここでいい?」
「はい。このことを聞くのは失礼かもしれませんが、あなたは魔法学校の生徒…ですよね?」
「そうだよ。僕は魔法学校1年生。てか、僕はそういうのは全然気にしてないから」
「…先輩、今日はありがとうございました!」
僕は先輩に頭を下げて家に向かって走り始めた。この調子なら、父が帰ってくるまでに帰れそうだ。あの先輩には感謝しなきゃ。