冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
「キスするタイミングが分からないや。……取り敢えずここらでチュッチュさせとくか?」



卒業式後、高校の入学式までは毎日が休日だ。例のごとく、わたしは毎日をダラダラと過ごしていた。



陽射しの入る勉強机に座り、今日も駄文を書きしたためる。
そう、趣味の小説だ。読む方もやぶさかではないが、書く方が殊更に好きなのだ。



「くーっ、ダメだダメだ!」



 物語の続きが上手く運べない。恋愛経験の乏しい、いや、ゼロのわたしには、恋愛小説はハードルが高い。



こう言う時は息抜きが大事だよね。



そんな無限ループ的な言い訳をして携帯を手に持った。



「もうお昼か。そろそろ練習が終わる頃か」



 わたしを除く六人は、ライブハウスで午前帯に練習すると、昨晩のグループチャットで話していた。ここ数日は彼らとは会っていない。



父が所有する小さなライブハウスは、飽くまでも趣味であり、メイン利用は蓮たちの練習場所となっていた。



幼い頃、蓮に楽器を教えたのは、わたしの父なのだ。



父は直ぐに蓮の天才的な音楽センスに驚愕したらしい。それ以来、彼らを全面的にバックアップしているのだ。



当初、わたしと小春はそんな様子をただ見ているだけだったが、小春も音楽に興味を持ち、蓮と同じ道を選んだのだ。



「……もし、あの時にわたしも音楽を選んでいたら」



時々、そんなセンチメンタルな事を考えてしまう。でも、わたしは私でいい。



今日も冴えない自分にそう言い聞かせたのだ。
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