冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
わたしたちと同じ制服を身に纏った二人の少年少女は、駅へと入って行った。
仲睦まじく楽しそうに談笑をしながら歩いている。
そして券売機で切符を買い改札を抜けて行った。
付かず離れずの距離を保ちながら、わたしたちは後を追う。
しかしわたしは券売機の前で、鞄をまさぐり右往左往となった。
「あっ、ちょっと小春?」
小春にわたしの声は聞こえていない。
彼女はえらく真面目な顔付きで、彼らの死角である古びた木造駅舎を補強する梁から、顔半分をを覗かせて彼らの動向を見張っている。
既に気分は探偵シャーロック・ホームズだろう。わたしの事を助手のワトソン君とでも呼びつけそうな様相を醸し出している。
いやいや、そんな比喩表現を思い浮かべてる場合でも無い。再び彼女に声を掛けた。
「ちょっと、小春ってば!」
「何よ? それより早く切符買いな。二人ともホームに行っちゃったわよ」
「忘れたのよ」
「忘れたって何を?」
「財布」
そう。わたしはノーマネーだったのだ。