冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
小春は呆れた表現を浮かべながらも、わたしへと細菌学者である野口を一枚手渡した。
「ゴメンね、登校初日に財布を忘れるなんて、クズかな。クズだね」
「いいから、行くわよ!」
電車が近づいてくる音が聞こえてきた。
慌てて切符を購入してから改札を抜け、ホームまで一本しかない階段を駆け上がる。丁度電車が到着した。
ふうー、ギリギリセーフだ。
ターゲットである二人が電車に入るのを見届けてから、彼らが乗った隣の車両へと乗り込んだ。
勿論、電車内はガラガラだ。小春と隣り合わせでシートに座り、呼吸を整える。
「どうする小春? もう声掛ける?」
三両編成の電車内は人もまばらだ。彼らの会話を盗み聞きする為に近づこうにも、同じ車両へ移れば一瞬でバレてしまう。
探偵ごっこも潮時である。