冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
 翌日のホームルーム前。

 机の下に隠れているわたしの手には、シャネルのハンドミラーが握られている。玲奈が貸してくれたものだ。

 コレにはGPSでも埋め込まれてるのだろうか? 
 今のわたしには所有するもの全て盗難、破壊される自信がある。

 それにしても玲奈の奴、女子高生でシャネラーとかどんだけ裕福な家庭なのだろうか。

 そんな事を考えながら、小春とさやかが教室から蓮を連れ出すのを今か今かと待っている。

 ホームルーム開始五分前。小春とさやかが教室前方入口から入って来た。

 二人はそのまま窓際に座る蓮へと一直線に進む。二、三会話を挟み、三人は教室の外へと出て行った。作戦通りだ。

 わたしはハンドミラーを机の上に上げ、自然に振舞った。

「あー、やっぱりシャネルは良いわね。貴族になった気分だよ。ホホホ」

 くっ、緊張して声が小さ過ぎたか。誰もこっちを見ないよ。仕方ない。スピーカーを利用するか。

 わたしは前方席に座る女子の肩をトトンと叩いた。

「何、宮橋さん?」

「見て見てコレ! 蓮にプレゼントされたの」

「えー! 月島くんに! 何で?」

「……何でって、そうねー、えーと、うーん。わたしには、百均の手鏡が似合わないとか言ってた気が……」

「何それー、もしかして付き合ってるの!」

「そ、そんな事ないよ! 付き合っては……いないよ」

 流石に彼女は噂好きなだけあって、切り込んでくる。ドリブラーの様だ。だが彼女に期待するのはパサーとしての才能である。

 彼女に話せば昼を待たずしてクラスに広まるだろう。
 そうこうしていると、蓮が担任と共に教室へ入ってきた。まあ。作戦は成功と言えるだろう。

 玲奈は後は任せてと言ってたが、どうするつもりなのだろうか。




(2)

 四限目の授業は体育館でバレーだ。

 わたしは体育の授業が嫌いだ。運動神経の鈍い者にとっては苦痛の時間とも言える。

 恐らく神様がわたしを創造した際、運動神経のステータス割振りをミスったのだろう。

 体育館のドアは全て開けられている。体育館からは運動場が見える。女子たち何人かは運動場でサッカーをする男子を眺めていた。


 キャーと言う女子たちの歓声が巻き起こった。

「相変わらず月島くんモテるわね。彼がゴールしたみたいよ」

 話しかけてきたのは森さんだ。

 森さんは法事の用があり、今日は四限目から学校に出てきている。

「神様は不公平だよ」

「神様?」

「何でもないよ。気にしないで」

 幼馴染であるわたしからすれば、神様は不公平だ。彼のスペックを上げすぎている。チート級なまでに。

 それによって生まれる蓮とわたしの格差は、切り裂く崖の様に深い。さらに無双の小春を隣人に用意するとは、一体全体、神様はどういうつもりなのだろうか。

「森さん、ちょっといい?」

「えっ! ……うん」

 森さんに声を掛けてきたのは、クラスメイトの向井と相楽だ。

 森さんは二人とともに行ってしまった。クラスの親睦会で行われたバーベキュー辺りから、森さんは二人と仲が良さそうだ。

 向井と相楽は今時のギャル系女子といった感じで、わたしが苦手なタイプなのだ。

 それにしても模範生徒である森さんは凄い。タイプの違う女子とも仲良く出来るとは。そう感心していると、隣に音も無く誰かが立っていた。

「わっー!」

 わたしは驚き飛び離れた。

 驚いた。本当に驚いた。全く気配を感じなかった。隣に立っていたの玲奈の友達である。

「えーと、玲奈ちゃんの友達の……」

 ヤバイ。名前を思い出せない。

「東雲 雪(しののめ ゆき)よ。雪でいいよ」

「雪ちゃん、一組だったんだね」

 体育の授業は三組と一組合同が基本だ。

「三十六回目ね」

「三十六回?」

「さっき月島君がゴールしたでしょ。ゴールキーパーはヒロト君。二人が勝負して今までにヒロト君が負けた回数よ」

 何? 雪ちゃんって玲奈を超えるストーカーさんなの? わたしは恐る恐る訊いてみる。

「えーと、雪ちゃんもヒロトのファンなの?」
「全然」

 違うのかよ! と、言うことは……。

「じゃあ、蓮のファンなんだね?」
「別に」
 
 じゃあ何でそんなマニアな回数を数えてるんだよ!
 『別に』って、どっかの某女優かよ。当時、ふてこい態度取って散々叩かれてたよ。

「私の趣味よ。気にしないで」

 彼女はニコリと笑った。
 怖いよ! 趣味って余計に怖いんだけど。

「あっ、じゃあ私、行くね」

 彼女は何かを見て、慌てて体育館の外へと走り去って行ってしまったのだ。
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