冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
【月島 蓮SIDE】
最近、雫の様子がおかしい。
それとなく訊いてみたが雫は何も無いと言う。
相変わらず馬鹿なところは変わってないのだが、物心ついた頃からの付き合いだ。微々たる変化に気づく。
雫の表情に影が見え出したのは数日前の事である。
五限目開始の予鈴がなった頃、雫は体操服姿で教室へと戻って来た。手には紙袋を持っている。オレは直ぐに違和感を覚えた。
不審に思ったのは体操服姿だからでは無い。小柄な雫にしては明らかに体操服のサイズが大きい。借りものである事は明白である。
五限目後の休み時間。
通りすがりに雫がさっき手に持っていた紙袋に目をやった。
袋の中身は制服だ。
紙袋はほんのりと湿っていた。
(2)
確信を得たのは今日の事だ。
雫は来客用のスリッパを履いていた。雫の家に電話をしてみたが、家にスリッパは無いと確認が取れた。合わせて電話の件は雫に伏せておくようお願いしておいた。
雫が悩みをオレに話さない以上、水面下で動くしか無い。
この時点で雫のスリッパは誰かに隠されたと判断した。勿論、雫が何処かで無くしたと言う可能性も捨てきれないが、ここは最悪のケースで考えるのがベターだ。
着替える必要があるほど濡れてしまった制服の件も含めて考える。オレは雫がイジメを受けていると断定した。
その事をオレに相談しない事も頷ける。雫は深刻な事ほど、自分から人を頼らない性格だからだ。
四限目の授業を終えると、雫は紙袋を持って教室から出て行った。
恐らく紙袋の中身は借りた体操服。それを持主へ返しに行ったのだろう。
オレは席を立ち、雫が普段仲良くしている森さんに声を掛けた。
「森さんちょっといいか?」
「えっ、私? どうしたの月島くん?」
彼女は少し驚いた様子を見せた。それもそうだろう。クラスメイトだが、話すのはこれが初めてだ。
「これオレの電話番号」
自分の電話番号を書いたメモ用紙を差し出した。彼女は訳も話からないといった表現でそれを受け取った。
「雫の事で相談がある。それと雫にはこの事を内緒にしておいて貰えると助かる」
「……うん、分かった」
帰宅途中、地元駅で珍しい光景を目撃した。小春とさやかはさて置き、雫の隣には坂口玲奈の姿があったのだ。
なるほど、体操服は坂口から借りていたのか。彼女の手にはあの紙袋が握られていた。となると、彼女は雫の協力者。小春とさやかもそうなのだろう。
オレは彼女たちが西口へ向かうのを見届けてから帰路についた。
夜、森さんから約束通り電話が入った。単刀直入に用件を伝えると、森さんは知る限りを話してくれた。内容は昇降口の嫌がらせが続いているという事。やはり雫は虐めを受けていた。
更に最も有益な情報は、森さんが虐めの首謀者に心当たりがあった事だ。
オレが参加しなかったクラスのバーベキュー。そこで彼女は雫の鞄にいたずらした人物に心当たりがあったのだ。
『で、それは誰なんだ?』
『相楽さんと向井さん……。でも、確証はないの。あの時、二人が雫のリュクの前で何かしてるのを見ただけで、はっきりと見たわけじゃないから』
『そうか。森さん助かったよ』
『あの、これで月島くんが何とかしてくれるって思って大丈夫だよね?』
『あー、大丈夫だ。それとくれぐれも雫には内緒にしておいてくれ』
『……約束は守るけど、何で雫に隠す必要があるの?』
『アイツは、あー見えてもプライドが高い所があるから……と、いうことにしておくよ』
『変な関係性ね。まあ解決するならそれでいいかって事にしておくよ』
森さんとのやり取りを終え電話を切った。次に携帯電話の発信履歴を探る。
オレはしばし考えをまとめてからさやかに電話を掛けた。チャットアプリではダメだ。考える時間を与えてしまう。
小春とさやかからは連絡は無かった。雫から相談されていないのか? それとも雫から口止めされているか、男子には頼らずといったところだろう。
もし、相談されているのなら彼女たちがどうやって解決するつもりなのか気になるが、小春とさやかは簡単には口を割らない。
ツーコールほどでさやかは電話に出た。
やはりさやかを選んで正解だった。それは彼女が合理的思考の持ち主だからだ。感情で動く小春は約束した事を絶対に口を割らない。
こちらから雫がイジメにあっているという事実を提示すれば、さやかは合理的に考える。
事実、さやかは雫の現状を全て打ち明けた。
電話を切った後、さやかから一枚の写真がチャットアプリを使って送られてきた。
それに目を通す。
虐めの首謀者を炙りだすための阪口の策らしいが、やろうとしている事は大体把握した。
だが、これだけでは爪が甘い。まき餌的な罠だ。オレなら––––追い込み漁を選ぶかな。
最近、雫の様子がおかしい。
それとなく訊いてみたが雫は何も無いと言う。
相変わらず馬鹿なところは変わってないのだが、物心ついた頃からの付き合いだ。微々たる変化に気づく。
雫の表情に影が見え出したのは数日前の事である。
五限目開始の予鈴がなった頃、雫は体操服姿で教室へと戻って来た。手には紙袋を持っている。オレは直ぐに違和感を覚えた。
不審に思ったのは体操服姿だからでは無い。小柄な雫にしては明らかに体操服のサイズが大きい。借りものである事は明白である。
五限目後の休み時間。
通りすがりに雫がさっき手に持っていた紙袋に目をやった。
袋の中身は制服だ。
紙袋はほんのりと湿っていた。
(2)
確信を得たのは今日の事だ。
雫は来客用のスリッパを履いていた。雫の家に電話をしてみたが、家にスリッパは無いと確認が取れた。合わせて電話の件は雫に伏せておくようお願いしておいた。
雫が悩みをオレに話さない以上、水面下で動くしか無い。
この時点で雫のスリッパは誰かに隠されたと判断した。勿論、雫が何処かで無くしたと言う可能性も捨てきれないが、ここは最悪のケースで考えるのがベターだ。
着替える必要があるほど濡れてしまった制服の件も含めて考える。オレは雫がイジメを受けていると断定した。
その事をオレに相談しない事も頷ける。雫は深刻な事ほど、自分から人を頼らない性格だからだ。
四限目の授業を終えると、雫は紙袋を持って教室から出て行った。
恐らく紙袋の中身は借りた体操服。それを持主へ返しに行ったのだろう。
オレは席を立ち、雫が普段仲良くしている森さんに声を掛けた。
「森さんちょっといいか?」
「えっ、私? どうしたの月島くん?」
彼女は少し驚いた様子を見せた。それもそうだろう。クラスメイトだが、話すのはこれが初めてだ。
「これオレの電話番号」
自分の電話番号を書いたメモ用紙を差し出した。彼女は訳も話からないといった表現でそれを受け取った。
「雫の事で相談がある。それと雫にはこの事を内緒にしておいて貰えると助かる」
「……うん、分かった」
帰宅途中、地元駅で珍しい光景を目撃した。小春とさやかはさて置き、雫の隣には坂口玲奈の姿があったのだ。
なるほど、体操服は坂口から借りていたのか。彼女の手にはあの紙袋が握られていた。となると、彼女は雫の協力者。小春とさやかもそうなのだろう。
オレは彼女たちが西口へ向かうのを見届けてから帰路についた。
夜、森さんから約束通り電話が入った。単刀直入に用件を伝えると、森さんは知る限りを話してくれた。内容は昇降口の嫌がらせが続いているという事。やはり雫は虐めを受けていた。
更に最も有益な情報は、森さんが虐めの首謀者に心当たりがあった事だ。
オレが参加しなかったクラスのバーベキュー。そこで彼女は雫の鞄にいたずらした人物に心当たりがあったのだ。
『で、それは誰なんだ?』
『相楽さんと向井さん……。でも、確証はないの。あの時、二人が雫のリュクの前で何かしてるのを見ただけで、はっきりと見たわけじゃないから』
『そうか。森さん助かったよ』
『あの、これで月島くんが何とかしてくれるって思って大丈夫だよね?』
『あー、大丈夫だ。それとくれぐれも雫には内緒にしておいてくれ』
『……約束は守るけど、何で雫に隠す必要があるの?』
『アイツは、あー見えてもプライドが高い所があるから……と、いうことにしておくよ』
『変な関係性ね。まあ解決するならそれでいいかって事にしておくよ』
森さんとのやり取りを終え電話を切った。次に携帯電話の発信履歴を探る。
オレはしばし考えをまとめてからさやかに電話を掛けた。チャットアプリではダメだ。考える時間を与えてしまう。
小春とさやかからは連絡は無かった。雫から相談されていないのか? それとも雫から口止めされているか、男子には頼らずといったところだろう。
もし、相談されているのなら彼女たちがどうやって解決するつもりなのか気になるが、小春とさやかは簡単には口を割らない。
ツーコールほどでさやかは電話に出た。
やはりさやかを選んで正解だった。それは彼女が合理的思考の持ち主だからだ。感情で動く小春は約束した事を絶対に口を割らない。
こちらから雫がイジメにあっているという事実を提示すれば、さやかは合理的に考える。
事実、さやかは雫の現状を全て打ち明けた。
電話を切った後、さやかから一枚の写真がチャットアプリを使って送られてきた。
それに目を通す。
虐めの首謀者を炙りだすための阪口の策らしいが、やろうとしている事は大体把握した。
だが、これだけでは爪が甘い。まき餌的な罠だ。オレなら––––追い込み漁を選ぶかな。