冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
晴天の霹靂とは正にコレか。ことわざ通り青く純朴なわたしの脳に雷鳴が直撃したのだ。
彼女の口が紡いだ『月島くん』
何というパワーワードなことか……。
落ち着け雫。森さんは言ってたじゃないか。出された課題の解らない問題を教えてもらっただけだと。
……だけどこんな時間にクラスメイトの異性に電話掛ける? しかも何で蓮の携帯番号知ってるの? 蓮が携帯番号を教えるなんてよっぽどのこと。
はっ! そう言えばこの前体育館で、何やら二人楽しそうに話していたし……
『おーい雫。おーい』
『ご、ゴメンゴメン』
危ない危ない。まだ通話中だった。いきなり投げっぱなしジャーマン喰らって精神の混濁を起こしていたよ。
『携帯ピーピー鳴ってるけど?』
『あっ、電池が2パーセントしかないや』
わたしは通話しながらベッドと壁の隙間に落ちた充電ケーブルを手探りでまさぐる。
『ねっ、訊かない方が良いって言ったでしょ』
『べ、別に大丈夫だよ。無問題『モウマンタイ)だよ』
『強がっちゃって。でも安心して本当に何もないから』
『いや~、森さん何か勘違いしてるって。わたしと蓮は只の幼馴染なだけだし。何だったら弟みたいな感じよ。ホホホ』
『……そう。それなら本当の事言うわね』
『ホントのこと?』
『実は私たち付き合ってるの』
『えっ?』
『なーんて––––ッーッーッ』
スマホの電池が切れたようだ。
スマホの画面とは対照的にわたしの思考は真っ白となった。
蓮と森さんが付き合っている!
わたしが十年間なし得なかったポジションを、森さんはたった一ヶ月で!
それは運動会の1500メートル競争で陸上部が野球部に負けると同意。日々の積み重ねなど無意味。高笑いする野球部を撲殺したい。
それより充電して折り返さないと。
彼女の薔薇色の恋話を、わたしはブルーチーズのように苦々しくも訊かなければならない運命。
「おいっ! 雫いるか!」
蓮が呼ぶ幻聴まで聴こえてきたよ。
「雫! いるんなら窓開けろ」
幻聴では無い。
カーテン越しにチラリと蓮の部屋を覗くと、彼がいた。
力の入らない手で窓を開ける。
「どうしたの……」
「お前、森さんと通話中に携帯の電源落ちただろ?」
「それが何か」
「何かじゃねーよ。森さんが電話欲しいって言ってたぞ。心配そうにしてたからすぐ掛けてやれ」
普通だ。蓮はいつも通りの様子だ。
彼女出来たくせに。
「蓮には関係ないでしょ。それに掛け直すつもりだったし」
「どんだけ塩対応なんだよ。折角、人が伝言係になってやったのに。相変わらず可愛くないな」
「あーそうですね! 可愛くないですよ。森さんみたいに素直じゃないし。べー!」
「森さん? まあ、掛け直すならそれでいいや。それより雫、明日暇か?」
「えーえー暇ですよ。年中予定の無い乾燥女ですから」
「それじゃあ明日の休み二人で遊びに行かないか?」
「な、な、なな何言ってんよ。流石に友達の彼氏と二人で遊びに行けるわけないでしょ!」
「友達の彼氏? さっきからお前大丈夫か? 変に機嫌悪いし。まあそう言うことだから明日の九時集合な」
「ちょっ、ちょっと~!」
蓮は無理矢理に約束を取り付けてカーテンの向こう側に行ってしまったのだ。
(2)
『あー良かった折り返しあって。変なとこで電話途切れたから心配したよ。それじゃあおやすみなさい』
『うん。おやすみ』
森さんがさっき言った蓮と付き合ってると言うのは冗談だったようだ。
と言うことは、フリーの男女が休日に二人で遊びに行く。
「これって完全にデート!」
いや、落ち着け。蓮のこう言った思わせぶりな言動は今までにも幾度とあった。
一喜一憂するのは時期尚早。
わたしは明日着ていく服を衣装ケースから大量に取り出して、等身大の姿見の前でファッションショーを深夜まで繰り広げたのだ。