冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
「似合ってるのかなぁ?」
姿見の前でわたしは、パリコレ常連のモデルとなり、大袈裟に体を斜めにしてポーズをきめこんだ。
淡い黄色のロング丈のスカートに、上は紺のノースリーブ。手には買ったばかりのクラッチバッグ。
最近集めた大人感漂う清楚系アイテムを散りばめた。
蓮が何を思って誘ってくれたのかは分からないが、砂漠に降った雹のようなもの。高校生になり、少し大人になった自分をこの機会にアピールする所存だ。
しかし若干の気掛かりもある。
「背丈と胸がもう少しあれば……」
こけし体型のわたしに、この服装が似合っているのか今一自信が無いのだ。
昨晩、やはり何時もの服装にしようと一旦考えたが、やはり攻撃的なフォーメーションで臨むことにしたのだ。
「財布、携帯、化粧ポーチにハンカチと。よし行くか!」
待ち合わせは駅前のバスロータリー。
ドタバタと忙しなく階段を下りて行く。
「お母さん、出掛けてくるね」
「どうしたの。そんなお洒落な格好して?」
「べ、別に普段着だけど。蓮と二人で遊びに行ってくるから、お昼ご飯いらないから」
「二人でって! あんたどんな手を使ったの!」
「あんた、それ実の娘に吐くセリフじゃないよ。もう行くから」
「ちょっと待ちなさい。あんたお金持ってるの?」
「五千円持ってるけど……もしかしてお小遣いくれるの?」
マミーはリビング横の和室に入りすぐさま戻ってきた。手には財布が握られている。
ゴッズ! お小遣いをくれる様だ。
正直、五千円では心持たなかったところだ。
「はい。コレで夕飯も済ましてきなさい」
「諭吉ッッッ!」
あのケチなマミーが諭吉をくれるとは……。
「それと今日は門限の時間を超えてもいいわよ」
「えっ! う、うん」
マミーは上機嫌に鼻歌交じりに和室へと財布を戻しに行った。
わたしの門限は19時だ。
以前、小春たちと遊んでいて遅くなり、門限を五分超えただけで大激怒を見せた人物と、同一人物であるとは到底思えない反応だ。
マミーの期待値は想像以上のようだ。これは手ぶらでは帰宅出来ないぞ。
わたしは家を出て、通りすがらチラッと小春の家へ視線を向けた。視線を戻し空を見上げると、太陽はわたしを祝福しているようだ。
ポカポカと暖かい絶妙な陽気に胸を弾ませ、待ち合わせ場所までスキップ混じりで向かったのだ。
「流石にまだ来てないか」
バスロータリーに一本木のように立つ時計塔に目をやると、待ち合わせ時間まではまだ二十分もある。
ベンチに座り、ハンドミラーを取り出して、顔を確認する。
「リップがテカり過ぎてるかも? しかも何か両目の大きさが不均等な気が……」
ふと冷静に見ると、気になるところがあちらこちらと湧き水の如く噴出してくる。
「……少し気合い入れ過ぎたか?」
化粧ポーチは鞄に入っている。何時もの薄っすらメイクにし直すか。だが、時間が無い。いや、隣のコンビニの手洗い場を利用すればいける。
わたしはハンドミラーをカバンに仕舞い、立ち上がった。
「おっ、雫来るの早いな」
やはり蓮は待ち合わせ時間の十分前に来た。
仕方ない。この顔で一日デュエルと決め込もう。
「おはよう蓮」
わたしは目線を少し地面に落としてスカートの裾をちまりと摘んだ。
何時もと違うスタイルは、蓮の目にどう映っているのだろうか。
無意識に落ちた目線を戻してみる。
「それじゃー行くか」
「……えっ?」
蓮はそう言って改札口へとスタスタと歩き出した。
––––––––マジか!
明らかに何時もと違う服装とメイク。
流石に気づかないなどあり得ない。
それなのに無感想、無反応、ノーリアクションってどゆこと?
「無いわー、コレは無いわー」
わたしはブツブツと怨の念仏を唱えながら、仕方なく蓮の後を追いかけたのだ。