冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
【雫side】
五月という季節は実に天邪鬼で優柔不断だ。
肌寒かった昨日とは一転して、今日は午前中にして汗ばむほどの陽気だ。
蓮と乗り込んだ電車は、心地よい揺れと小気味好い音をたてながら東へと向かって行く。
正面の窓越しに見えるのは田園風景。そんな退屈なページだけが繰り返されていく。
わたしは券売機で購入した千円弱の切符を、スカートのポケットにしまい込んだ。
「ねぇ? まだ今日のプラン聞いてないんだけど」
行き先は都心部という事は分かっている。
だが、わたしはまだ肝心のデートプランを訊いていないのだ。
「そうだなー。まずは買物でもするか」
「ショッピング?」
ショッピングと来ましたか。実にデートっぽい。
特段欲しいものも無いが、蓮と一緒なら楽しそうだ。
それにしてもわざわざ都心部まで行かないと買えない物なのだろうか?
我が地元の駅前にもショッピングモールはある。
地元民は総じて頑なにショッピングモールと呼んでいるが、都会の基準ではモールでは無いらしいが……。
そんな事はさておき、いま正に楽しい時間は一瞬で過ぎ去るをこの身に体感し、一時間ほどで目的地である駅へと到着したのだ。
流石に都心部だ。駅も大きく人の数が多い。まるで人間がゴミのようだ。
何台も横に並ぶ改札を出て、駅直結の百貨店へと入った。
そしてわたしはようやくある事に気付いたのだ。
「蓮、ヤバくない! メチャクチャ見られてるよ?」
遠巻きにキャーキャーと騒ぐ女子どもの視線が蓮に集まっている。
ここは地元では無い。月島蓮が変装も無しに都心部に現れればこうなる事は必至。
ワラワラとミジンコの如く人が集まってくる。
「気にすんな。別に話しかけて来ないから」
「話しかけては来ないけど、みんな後ろからついて来てるんですけど……」
そして何よりも、彼女たちから発せられるわたしへの殺気がモノ凄い。
「……雫が気になるんだったら撒くか?」
「撒くって?」
「行くぞ!」
彼は唐突に無防備なわたしの手をギュッと握りしめて走り出した。
百貨店をの中を通り過ぎ、階段を勢いよく駆け下りる。そして一階のエレベーターに乗り込み屋上へと上がって行く。そうこうしてファンたちを振り切ったのだ。
「ちょっとここで待ってて」
息切れ切れにそう言って、彼を屋上に残しわたしはあるアイテムを調達しに行く。
初っ端からこんな調子では、デートが台無しになってしまう。
アイテムを購入してから蓮の元へと戻り、それを彼に手渡した。
「これで顔を隠してよね」
彼は受け取った白いキャップの値札を無理矢理に手で千切り、目が隠れるほどに深々と被った。
「どうだ似合うか?」
そう言って笑った蓮の笑顔は、純朴で無邪気な少年のように可愛かった。
だが、天邪鬼なわたしはこう答えるしか出来なかったのだ。
「……普通かな」
(2)
「直ぐに百貨店には戻れないし、買物は帰りにするか」
「その方が良さそうだね」
直ぐに戻れば徘徊しているゾンビたちの餌食になる事は目に見えている。
取り敢えず駅ビルから外へ出て、丁度目に入ったベンチへと腰掛けた。
「ホイっ」
「あんがと」
蓮が自販機で買ってくれた炭酸入りジュースで喉を潤す。
「それよりこれからどうするの?」
今日はわたしの記念すべき初デートである。
今後の予定を伺う。
一体どんな予定を立ててくれているのどかろうかと、胸をドギドキトと弾ませて彼の言葉を待った。
「んー……。特には決めて無いけど」
彼はあっけらかんとそう言い放った。
どういう事だろうか?
初デートを半ば強引に取り付けておいて予定はない! しかもわたしの変化にも一向に気づかないし。普通は服の一つでも褒めるのがマナーではないのだろうか。
「雫は何かしたい事あるか? よしっ! 君の案を受け付ける」
よく言えたね、それ!
初デート中の初っ端からノープラン。しかも女の子に案を募るとはこれ如何に。
しかしそう言ってても仕方ない。
「じゃ~、映画とか?」
まぁ、定番ではあるが恋愛映画も悪くはない。
「映画か。確か今、ドラ◯もんやってたな。雫好きだったろ」
いつの頃の話だよ! この歳で観ても、タケコプター使ってよく首の骨折れないなー、ぐらいしか感想湧かないよ。映画は却下だよ。
「やっぱり映画はいいや。ボーリング行く?」
「お前半分ぐらいガターだろ」
「……じゃあ~、カラオケとか?」
「悪い。今日は喉休ませたいから」
「……」
「言っておくけど、俺に合わせなくていいぞ。ボーリングもカラオケも雫は好きじゃないだろ。雫が一番したい事でいいから」
一番したい事か……。
「じゃあ、遊園地とかどうかな?」
上目に彼の反応を窺った。
「遊園地?」
「あっ、嫌ならいいよ。蓮、ジェットコースターとか苦手だもんね」
「別にいいぞ。ここからだとバスで近いし行ってみるか」
幼い頃によく思い描いていた遊園地での妄想デート。
小学生の頃、毎日就寝中にそんな妄想を膨らませながら眠りについていたものだ。
遅まきながら高校生になったわたしは、当時、彼女が小さな胸に抱いていた夢を叶えたのだ。
五月という季節は実に天邪鬼で優柔不断だ。
肌寒かった昨日とは一転して、今日は午前中にして汗ばむほどの陽気だ。
蓮と乗り込んだ電車は、心地よい揺れと小気味好い音をたてながら東へと向かって行く。
正面の窓越しに見えるのは田園風景。そんな退屈なページだけが繰り返されていく。
わたしは券売機で購入した千円弱の切符を、スカートのポケットにしまい込んだ。
「ねぇ? まだ今日のプラン聞いてないんだけど」
行き先は都心部という事は分かっている。
だが、わたしはまだ肝心のデートプランを訊いていないのだ。
「そうだなー。まずは買物でもするか」
「ショッピング?」
ショッピングと来ましたか。実にデートっぽい。
特段欲しいものも無いが、蓮と一緒なら楽しそうだ。
それにしてもわざわざ都心部まで行かないと買えない物なのだろうか?
我が地元の駅前にもショッピングモールはある。
地元民は総じて頑なにショッピングモールと呼んでいるが、都会の基準ではモールでは無いらしいが……。
そんな事はさておき、いま正に楽しい時間は一瞬で過ぎ去るをこの身に体感し、一時間ほどで目的地である駅へと到着したのだ。
流石に都心部だ。駅も大きく人の数が多い。まるで人間がゴミのようだ。
何台も横に並ぶ改札を出て、駅直結の百貨店へと入った。
そしてわたしはようやくある事に気付いたのだ。
「蓮、ヤバくない! メチャクチャ見られてるよ?」
遠巻きにキャーキャーと騒ぐ女子どもの視線が蓮に集まっている。
ここは地元では無い。月島蓮が変装も無しに都心部に現れればこうなる事は必至。
ワラワラとミジンコの如く人が集まってくる。
「気にすんな。別に話しかけて来ないから」
「話しかけては来ないけど、みんな後ろからついて来てるんですけど……」
そして何よりも、彼女たちから発せられるわたしへの殺気がモノ凄い。
「……雫が気になるんだったら撒くか?」
「撒くって?」
「行くぞ!」
彼は唐突に無防備なわたしの手をギュッと握りしめて走り出した。
百貨店をの中を通り過ぎ、階段を勢いよく駆け下りる。そして一階のエレベーターに乗り込み屋上へと上がって行く。そうこうしてファンたちを振り切ったのだ。
「ちょっとここで待ってて」
息切れ切れにそう言って、彼を屋上に残しわたしはあるアイテムを調達しに行く。
初っ端からこんな調子では、デートが台無しになってしまう。
アイテムを購入してから蓮の元へと戻り、それを彼に手渡した。
「これで顔を隠してよね」
彼は受け取った白いキャップの値札を無理矢理に手で千切り、目が隠れるほどに深々と被った。
「どうだ似合うか?」
そう言って笑った蓮の笑顔は、純朴で無邪気な少年のように可愛かった。
だが、天邪鬼なわたしはこう答えるしか出来なかったのだ。
「……普通かな」
(2)
「直ぐに百貨店には戻れないし、買物は帰りにするか」
「その方が良さそうだね」
直ぐに戻れば徘徊しているゾンビたちの餌食になる事は目に見えている。
取り敢えず駅ビルから外へ出て、丁度目に入ったベンチへと腰掛けた。
「ホイっ」
「あんがと」
蓮が自販機で買ってくれた炭酸入りジュースで喉を潤す。
「それよりこれからどうするの?」
今日はわたしの記念すべき初デートである。
今後の予定を伺う。
一体どんな予定を立ててくれているのどかろうかと、胸をドギドキトと弾ませて彼の言葉を待った。
「んー……。特には決めて無いけど」
彼はあっけらかんとそう言い放った。
どういう事だろうか?
初デートを半ば強引に取り付けておいて予定はない! しかもわたしの変化にも一向に気づかないし。普通は服の一つでも褒めるのがマナーではないのだろうか。
「雫は何かしたい事あるか? よしっ! 君の案を受け付ける」
よく言えたね、それ!
初デート中の初っ端からノープラン。しかも女の子に案を募るとはこれ如何に。
しかしそう言ってても仕方ない。
「じゃ~、映画とか?」
まぁ、定番ではあるが恋愛映画も悪くはない。
「映画か。確か今、ドラ◯もんやってたな。雫好きだったろ」
いつの頃の話だよ! この歳で観ても、タケコプター使ってよく首の骨折れないなー、ぐらいしか感想湧かないよ。映画は却下だよ。
「やっぱり映画はいいや。ボーリング行く?」
「お前半分ぐらいガターだろ」
「……じゃあ~、カラオケとか?」
「悪い。今日は喉休ませたいから」
「……」
「言っておくけど、俺に合わせなくていいぞ。ボーリングもカラオケも雫は好きじゃないだろ。雫が一番したい事でいいから」
一番したい事か……。
「じゃあ、遊園地とかどうかな?」
上目に彼の反応を窺った。
「遊園地?」
「あっ、嫌ならいいよ。蓮、ジェットコースターとか苦手だもんね」
「別にいいぞ。ここからだとバスで近いし行ってみるか」
幼い頃によく思い描いていた遊園地での妄想デート。
小学生の頃、毎日就寝中にそんな妄想を膨らませながら眠りについていたものだ。
遅まきながら高校生になったわたしは、当時、彼女が小さな胸に抱いていた夢を叶えたのだ。