冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
【月島蓮side】
今日という一日はひょんなことから始まった。
昨日、森さんと雫の伝書鳩をした際、何を思ってか雫を遊びに誘ってしまったのだ。
何故か機嫌の悪かった雫の気持ちを宥める為だろうか?
はたまた、彼女が妹のように守りたくなる子供っぽさを纏う存在だから。
いや、どちらも正確な答えとは違うだろう。だが、しっくりくる回答もさして思い浮かばない。
まあ、彼女を嘘つきのままにしておくのも忍びないし、いい機会かと自身を納得させたのだ。
待ち合わせ場所のバスロータリーへ行くと、珍しく雫が先に待っていた。
彼女は手鏡と睨めっこしており、相変わらずマヌケな顔を世間様に披露していたのだ。
オレは雫へと声を掛けて改札口へと向かう。雫は何やらブツブツと言いながら後ろをついてきた。
まだ機嫌を損ねているのだろうか?
(2)
道中、紆余曲折を経て、雫が希望した遊園地へとやって来た。
いつ以来の来園だろうか。昔は親たちに連れられて四人一緒に遊んだものだ。
刹那に浮かんだそんな過去の記憶に、一瞬、胸を締め付けられた感覚を伴った。
オレは聖母たる少女を久しぶりに思い返したのだ。
遊園地に来てから三時間ほど、子供のようにはしゃぐ雫の後をひたすら追いかけた。
小春がこの場に居れば、二人仲良くアトラクションを楽しむところを眺めるだけで済んだだろう。
しかし今日は二人だけだ。それにより苦手なジェットコースターにも三度連続で載せられる羽目にあった。
それにしてもフリーホールとやらは、一体どんな狂信者が考えたのだろうか。三秒ほどの自由落下を楽しめる人間とは、さも不思議な生き物である。
遅めの昼食を済ませた頃、突如、オレたちの周りには人だかりが目立ち出した。
周りの女子中学生だろうか、携帯のカメラが此方へと向けられている。
俺たちは再び走り、遊園地を後にしたのだ。
駅へと戻るバスに乗り込み、席へと座る。
ツイッターを確認してみると、オレと雫の写真が盛大に拡散されていた。雫に知らせるとまた不機嫌になられても困るからと、携帯をそっとしまったのだ。
「最後に観覧車乗りたかったのに~」
雫は遊園地で撮った写真を携帯で見返しながら、さっきからこの言葉を繰り返している。どうやら彼女はまだ遊び足りなかったようだ。
「まあ、次の機会に乗ればいいさ」
「本当? また一緒にくる?」
「そうだな。次はバンドメンバーと小春も一緒に連れて行こう」
「何よそれ」
彼女はしかめっ面となったが、今日という思い出の写真を見返すと、再び笑顔を取り戻したのだ。
オレは何時もこう言った雫の高低差ある態度に、ヤキモキさせられるのである。
良かれと思って言ったことも、彼女には上手く伝わらない事がある。そして総じてその後、雫は不機嫌となる。
その為、今日、待ち合わせ場所での一言をオレは吐き出さずにゴクリと飲み込んだのだ。
駅へと戻り、当初行くはずであった百貨店へと入った。お目当てのモノはどの辺に置かれてるのだろうか?
「ねー、何を買うの?」
「手鏡だけど。何処に売ってるんだ?」
「へー、蓮もハンドミラーとか持ち歩いてんだ」
「そんな訳でないだろ。雫へのプレゼントだよプレゼント」
「な、なな、なんで蓮がわたしにプレゼントしてくれるの!」
「お前、学校で俺から手鏡貰ったとか嘘付いただろ。まあー、もうすぐ雫の誕生日だしな。前渡しって事で」
「ご、ゴメンね。蓮もその事知ってたんだね」
「クラスの女子たちから散々聞かれたんだぜ」
「……何て答えたの?」
「取り敢えず雫の嘘に合わせておいたよ。まあ、今日プレゼントすれば嘘じゃなくなるしな」
そう言うと、雫は少し顔を赤らめて小さく頭を下げた。
オレはそんな雫の頭をポンっと触ろうとしたが、何故か躊躇ってしまったのだ。
その後、彼女は迷いに迷った挙句、赤いハート型のコンパクトミラーを選んだ。
「本当にそんなに小さいので良いのか? こっちに拡大鏡とかライトが付いてるのも有るぞ」
「いいの。コレが一番欲しいから」
彼女はそう言って何とも嬉しそうな表情を浮かべたのだ。
この愛くるしい表情こそが、ほっとけなくさせるのだろう。
何と例えればいいのだろうか。仔犬の頃のラブラドールレトリーバと言うのがしっくりきたが、コレは彼女には伏せておいた方が良さそうだ。
空が夕焼け色となった頃、オレたちは自宅前まで戻って来た。
「今日はありがとう。楽しかったよ」
「そっか。楽しんでくれたのならアトラクションに乗った甲斐があったよ。またな」
「じゃあね」
雫が玄関扉を開けて家に入るのを見届けた。
「雫!」
玄関扉が完全に閉まる前にオレは彼女を呼び止めた。いや、間に合わなくても良いとさえ思って呼びとめた。
「何?」
しかし幸か不幸か雫は顔だけをひょこりと玄関扉から覗かせた。
まあ、大した事では無い。コレは伝えても良い方の部類だろう。
オレは早朝に一度飲み込んだ言葉を吐き出した。
「今日のその服、似合ってたぞ」
雫は唐突なオレの言葉に一瞬キョトンとした表情を見せた。
「……それ最初に言ってよね」
彼女はそのままうつむきながら玄関扉の向こうへと行ってしまったのだ。
「さて帰るか」
それにしても昼は暑いぐらいだったのに、夕方になり肌寒くなってきた。
雫が生まれた皐月時は、彼女に似てどうにも天邪鬼のようだ。
今日という一日はひょんなことから始まった。
昨日、森さんと雫の伝書鳩をした際、何を思ってか雫を遊びに誘ってしまったのだ。
何故か機嫌の悪かった雫の気持ちを宥める為だろうか?
はたまた、彼女が妹のように守りたくなる子供っぽさを纏う存在だから。
いや、どちらも正確な答えとは違うだろう。だが、しっくりくる回答もさして思い浮かばない。
まあ、彼女を嘘つきのままにしておくのも忍びないし、いい機会かと自身を納得させたのだ。
待ち合わせ場所のバスロータリーへ行くと、珍しく雫が先に待っていた。
彼女は手鏡と睨めっこしており、相変わらずマヌケな顔を世間様に披露していたのだ。
オレは雫へと声を掛けて改札口へと向かう。雫は何やらブツブツと言いながら後ろをついてきた。
まだ機嫌を損ねているのだろうか?
(2)
道中、紆余曲折を経て、雫が希望した遊園地へとやって来た。
いつ以来の来園だろうか。昔は親たちに連れられて四人一緒に遊んだものだ。
刹那に浮かんだそんな過去の記憶に、一瞬、胸を締め付けられた感覚を伴った。
オレは聖母たる少女を久しぶりに思い返したのだ。
遊園地に来てから三時間ほど、子供のようにはしゃぐ雫の後をひたすら追いかけた。
小春がこの場に居れば、二人仲良くアトラクションを楽しむところを眺めるだけで済んだだろう。
しかし今日は二人だけだ。それにより苦手なジェットコースターにも三度連続で載せられる羽目にあった。
それにしてもフリーホールとやらは、一体どんな狂信者が考えたのだろうか。三秒ほどの自由落下を楽しめる人間とは、さも不思議な生き物である。
遅めの昼食を済ませた頃、突如、オレたちの周りには人だかりが目立ち出した。
周りの女子中学生だろうか、携帯のカメラが此方へと向けられている。
俺たちは再び走り、遊園地を後にしたのだ。
駅へと戻るバスに乗り込み、席へと座る。
ツイッターを確認してみると、オレと雫の写真が盛大に拡散されていた。雫に知らせるとまた不機嫌になられても困るからと、携帯をそっとしまったのだ。
「最後に観覧車乗りたかったのに~」
雫は遊園地で撮った写真を携帯で見返しながら、さっきからこの言葉を繰り返している。どうやら彼女はまだ遊び足りなかったようだ。
「まあ、次の機会に乗ればいいさ」
「本当? また一緒にくる?」
「そうだな。次はバンドメンバーと小春も一緒に連れて行こう」
「何よそれ」
彼女はしかめっ面となったが、今日という思い出の写真を見返すと、再び笑顔を取り戻したのだ。
オレは何時もこう言った雫の高低差ある態度に、ヤキモキさせられるのである。
良かれと思って言ったことも、彼女には上手く伝わらない事がある。そして総じてその後、雫は不機嫌となる。
その為、今日、待ち合わせ場所での一言をオレは吐き出さずにゴクリと飲み込んだのだ。
駅へと戻り、当初行くはずであった百貨店へと入った。お目当てのモノはどの辺に置かれてるのだろうか?
「ねー、何を買うの?」
「手鏡だけど。何処に売ってるんだ?」
「へー、蓮もハンドミラーとか持ち歩いてんだ」
「そんな訳でないだろ。雫へのプレゼントだよプレゼント」
「な、なな、なんで蓮がわたしにプレゼントしてくれるの!」
「お前、学校で俺から手鏡貰ったとか嘘付いただろ。まあー、もうすぐ雫の誕生日だしな。前渡しって事で」
「ご、ゴメンね。蓮もその事知ってたんだね」
「クラスの女子たちから散々聞かれたんだぜ」
「……何て答えたの?」
「取り敢えず雫の嘘に合わせておいたよ。まあ、今日プレゼントすれば嘘じゃなくなるしな」
そう言うと、雫は少し顔を赤らめて小さく頭を下げた。
オレはそんな雫の頭をポンっと触ろうとしたが、何故か躊躇ってしまったのだ。
その後、彼女は迷いに迷った挙句、赤いハート型のコンパクトミラーを選んだ。
「本当にそんなに小さいので良いのか? こっちに拡大鏡とかライトが付いてるのも有るぞ」
「いいの。コレが一番欲しいから」
彼女はそう言って何とも嬉しそうな表情を浮かべたのだ。
この愛くるしい表情こそが、ほっとけなくさせるのだろう。
何と例えればいいのだろうか。仔犬の頃のラブラドールレトリーバと言うのがしっくりきたが、コレは彼女には伏せておいた方が良さそうだ。
空が夕焼け色となった頃、オレたちは自宅前まで戻って来た。
「今日はありがとう。楽しかったよ」
「そっか。楽しんでくれたのならアトラクションに乗った甲斐があったよ。またな」
「じゃあね」
雫が玄関扉を開けて家に入るのを見届けた。
「雫!」
玄関扉が完全に閉まる前にオレは彼女を呼び止めた。いや、間に合わなくても良いとさえ思って呼びとめた。
「何?」
しかし幸か不幸か雫は顔だけをひょこりと玄関扉から覗かせた。
まあ、大した事では無い。コレは伝えても良い方の部類だろう。
オレは早朝に一度飲み込んだ言葉を吐き出した。
「今日のその服、似合ってたぞ」
雫は唐突なオレの言葉に一瞬キョトンとした表情を見せた。
「……それ最初に言ってよね」
彼女はそのままうつむきながら玄関扉の向こうへと行ってしまったのだ。
「さて帰るか」
それにしても昼は暑いぐらいだったのに、夕方になり肌寒くなってきた。
雫が生まれた皐月時は、彼女に似てどうにも天邪鬼のようだ。