冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
【一ノ瀬小春side】
「雫さっきから鏡ばっかり見てるわね」
「えっ、ゴメンゴメン」
雫は勉強机に座り、ハート型のコンパクトミラーを嬉しそうに眺めている。
鏡を真剣な面持ちで見てるかと思えば、急にニタニタしたりとやはり雫は変り者だ。
「それ可愛いじゃん。何処で買ったの?」
「……えーと、駅前の雑貨屋さんかな」
「そうなんだ。今度覗いてみよ」
「えっ……! いやっ、こんな子供っぽいの小春には似合わないよっ。それよりもう直ぐとっちゃんと蓮が来る頃だし、下に行っとこうよ」
雫はそう言って、勉強机の引き出しにコンパクトミラーを仕舞い込み、汗汗とした様子で私を一階のリビングへと促したのだ。
今日はとっちゃん家の一時帰国もあり、私と蓮も両親と共に雫の家に集まる事となっている。
リビングへ行くと、蓮と雫と私の父たちは既にビールを飲み始めている。母たちは料理の段取りに忙しそうだ。
後はとっちゃんとその両親、蓮が来るのを待つのみだ。
程なくしてインターホンが一つ鳴り、待人の4人が同じくしてやって来た。
雫はとっちゃんにすぐ様抱きついた。目には薄っすらと水の膜が滲んでいる。
とっちゃんはヨシヨシと雫の頭を軽く撫でた。
リビングのテーブルには大人たちが鍋を囲み宴会が行われた。
私たち子供組は隣の和室に設けられたローテーブルで鍋を囲む。
蓮が奥側に座ると、雫はちゃっかりと彼の隣をキープした。蓮の対面をとっちゃんに譲り、私は最後に席へと着いたのだ。
昔であれば、蓮の隣を雫と取り合ったものだ。
幼い頃はそれでよく喧嘩となり、最後はとっちゃんが仲裁する。今、そんな状況は起こらない。起こるはずもないのだ。
「そう言えば、富ねえがイギリスに行く前もこうやって集まってたな」
「そうね。あれからもう五年か~。蓮くんたちも大きくなったわね」
「とっちゃんが戻ってくるなんて、嬉しすぎるよ」
五年ぶりの再会だ。話題は尽きない。
三人は笑顔が絶えない楽しい夕食を過ごしている。皆んな心から笑っている。
それに引き換え、私は無理に笑顔を作り合わせている。久しぶりの四人集まっての夕食が楽しくない訳がない。
……だが、心からの笑顔が湧き出てこないのだ。
「雫っ、肉ばかり取るなよ」
「そ、そんなことないし! ねっ、とっちゃん?」
蓮に嗜められた雫はとっちゃんへと助けを求めた。
「んー、お野菜もしっかり食べないとダメよ雫ちゃん」
とっちゃんはあいも変わらずニコニコと答えた。
「ほれっ、俺が入れやるから器貸せ」
「あっ、もーお節介やめてよ」
私は何故か上手く会話に混じることが出来ない。
相槌を合わせながら過ごす。
「暑くなって来たからちょっと外で涼んでくるね」
私はそう言って、家を出て夜の田んぼ道を歩く。
鍋で熱くなった身体を夜風が冷んやりと冷ましてくれる。気持ちいい。
しかし反面、心持ちは鈍く重い。私は三人の元から逃げ出したのだ。
「虫の音がもう聴こえるや」
何故か混雑してしまった私の思考回路を分析し、立て直す時間が必要だったのだ。
用水路の脇に座り、足だけを水に浸した。
月を眺め少し頭をぼんやりとさせて過ごす。
何も無い時間が、私の心のバグを引き起こした原因を突き止める。
そこには変わらないものと、変わったものが存在していた。
変わらないのは三人で、変わったのは私だ。
それが私を苦しめる。
正確に言えば、私はある意味で変わっていない。
認めたく無いが……私の恋はまだ火が消えていない様だ。
だが、私は振られた身。もう昔のように雫と席を取り合ったり、とっちゃんを味方について貰うよう促したり出来ないのだ。
久しぶりに四人集まったことで雪崩のごとく私の心と頭を支配していく。変わった自分を演じることがこれほど苦しいものなのかと言うことを……。
そして用水路を優しく流れる水の音が、私の硬くなっていた涙腺を大きく震わしたのだ。
※【間違って完結にしてしまいましたが、まだまだ続きます。】
「雫さっきから鏡ばっかり見てるわね」
「えっ、ゴメンゴメン」
雫は勉強机に座り、ハート型のコンパクトミラーを嬉しそうに眺めている。
鏡を真剣な面持ちで見てるかと思えば、急にニタニタしたりとやはり雫は変り者だ。
「それ可愛いじゃん。何処で買ったの?」
「……えーと、駅前の雑貨屋さんかな」
「そうなんだ。今度覗いてみよ」
「えっ……! いやっ、こんな子供っぽいの小春には似合わないよっ。それよりもう直ぐとっちゃんと蓮が来る頃だし、下に行っとこうよ」
雫はそう言って、勉強机の引き出しにコンパクトミラーを仕舞い込み、汗汗とした様子で私を一階のリビングへと促したのだ。
今日はとっちゃん家の一時帰国もあり、私と蓮も両親と共に雫の家に集まる事となっている。
リビングへ行くと、蓮と雫と私の父たちは既にビールを飲み始めている。母たちは料理の段取りに忙しそうだ。
後はとっちゃんとその両親、蓮が来るのを待つのみだ。
程なくしてインターホンが一つ鳴り、待人の4人が同じくしてやって来た。
雫はとっちゃんにすぐ様抱きついた。目には薄っすらと水の膜が滲んでいる。
とっちゃんはヨシヨシと雫の頭を軽く撫でた。
リビングのテーブルには大人たちが鍋を囲み宴会が行われた。
私たち子供組は隣の和室に設けられたローテーブルで鍋を囲む。
蓮が奥側に座ると、雫はちゃっかりと彼の隣をキープした。蓮の対面をとっちゃんに譲り、私は最後に席へと着いたのだ。
昔であれば、蓮の隣を雫と取り合ったものだ。
幼い頃はそれでよく喧嘩となり、最後はとっちゃんが仲裁する。今、そんな状況は起こらない。起こるはずもないのだ。
「そう言えば、富ねえがイギリスに行く前もこうやって集まってたな」
「そうね。あれからもう五年か~。蓮くんたちも大きくなったわね」
「とっちゃんが戻ってくるなんて、嬉しすぎるよ」
五年ぶりの再会だ。話題は尽きない。
三人は笑顔が絶えない楽しい夕食を過ごしている。皆んな心から笑っている。
それに引き換え、私は無理に笑顔を作り合わせている。久しぶりの四人集まっての夕食が楽しくない訳がない。
……だが、心からの笑顔が湧き出てこないのだ。
「雫っ、肉ばかり取るなよ」
「そ、そんなことないし! ねっ、とっちゃん?」
蓮に嗜められた雫はとっちゃんへと助けを求めた。
「んー、お野菜もしっかり食べないとダメよ雫ちゃん」
とっちゃんはあいも変わらずニコニコと答えた。
「ほれっ、俺が入れやるから器貸せ」
「あっ、もーお節介やめてよ」
私は何故か上手く会話に混じることが出来ない。
相槌を合わせながら過ごす。
「暑くなって来たからちょっと外で涼んでくるね」
私はそう言って、家を出て夜の田んぼ道を歩く。
鍋で熱くなった身体を夜風が冷んやりと冷ましてくれる。気持ちいい。
しかし反面、心持ちは鈍く重い。私は三人の元から逃げ出したのだ。
「虫の音がもう聴こえるや」
何故か混雑してしまった私の思考回路を分析し、立て直す時間が必要だったのだ。
用水路の脇に座り、足だけを水に浸した。
月を眺め少し頭をぼんやりとさせて過ごす。
何も無い時間が、私の心のバグを引き起こした原因を突き止める。
そこには変わらないものと、変わったものが存在していた。
変わらないのは三人で、変わったのは私だ。
それが私を苦しめる。
正確に言えば、私はある意味で変わっていない。
認めたく無いが……私の恋はまだ火が消えていない様だ。
だが、私は振られた身。もう昔のように雫と席を取り合ったり、とっちゃんを味方について貰うよう促したり出来ないのだ。
久しぶりに四人集まったことで雪崩のごとく私の心と頭を支配していく。変わった自分を演じることがこれほど苦しいものなのかと言うことを……。
そして用水路を優しく流れる水の音が、私の硬くなっていた涙腺を大きく震わしたのだ。
※【間違って完結にしてしまいましたが、まだまだ続きます。】