冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
「ヒロト意地悪やめてよね! 玲奈ちゃんわたしの友達なんだからっ!」
「友達? 雫のか?」
「そうよっ! だから謝ってよね!」
「わっ、悪かった。そんなに怒るなよ」
「わたしにじゃないよ。玲奈ちゃんに謝ってよね」
「宮橋さん私は別に大丈夫だから……」
「ダメだよっ! いつもヒロトは仲間以外に厳しすぎるんだから。これはいい機会よ」
ヒロトは優しい奴だ。それは間違いない。
不良っぽい言動だが、実のところレディーファーストであり、何時もわたしを女の子として扱ってくれる貴重な男子だ。
今も何気なく車道側に立っている。
しかし一転、これが別の人間となると鬼の対応となる。追っかけファンの女の子たちにも終始、冷たい態度をとっている。
「坂口だっけ?」
「う、うん」
「ごめん。悪かったな」
彼は玲奈に頭を下げて謝った。これで流石に名前は覚えただろう。
「これでいいだろ雫?」
「よしよし。それでこそわたしの知っているヒロトだよ」
笑顔でそう言うと、彼は何処と無く照れくさい表情を浮かべて頭を掻いた。
「それより二人でどっかに行くのか?」
「んーと、行ってみたい新規オープンのカフェがあったんだけど、玲奈ちゃん忙しいらしくて」
「……そ、それなら俺と行くか?」
「えっ……?」
「いやっ、一度家に帰ってからライブハウス行くつもりだったけど、よく考えたら面倒だしな。一時間ほど時間あるし。……雫が嫌でなかったらだけど」
彼は珍しく饒舌に言葉を並べた。
「別に嫌じゃないけど」
仕方ない。ここはヒロトと一緒に行くか。しつこくし過ぎたら玲奈にホントに嫌われ兼ねない。
それに下見としても先にカフェには行っておきたかったのだ。雰囲気が良ければ今度、蓮を誘えるとも考えていたのだ。
「宮橋さん!」
玲奈がわたしを呼び止めた。
「私も一緒に行くわ」
「ええー‼︎ 一緒に来てくれるの?」
「うん」
「……何で?」
「友達と遊ぶのに理由なんているかしら?」
玲奈はニコリと笑い、可愛らしく首を横へと少し傾けた。
わたしは彼女の変わり身の速さに驚きつつも、ある事に気付いたのだ。玲奈はヒロトの単なる一ファンではない。
彼女が彼を眺める表情に、わたしは純真な恋心を感じ取ったのだ。