冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
半田舎な街に不似合いなお洒落なカフェ。

四人がけのテーブル席へと通された。わたしと玲奈が奥側に座るのを待ってからヒロトは対面に腰を下ろした。

「玲奈ちゃんとヒロトも同じのでいい?」

わたしは早速、メニュー表にオススメと書かれたケーキセットを三つ注文した。注文を終えてからも、次の来店時には何を食べようかとメニュー表を眺め続ける。
 
ウッド調の小洒落た内装に流れるクラシック音楽。左耳から聞こえてくる他の客たちの雑談。その静寂でも騒々しくも無いBGMがわたしを楽しい妄想の世界に誘う。



ある日の放課後に、窓から西陽が射し込むお洒落な店内。窓際に座る制服姿の男女はテーブルを挟んで初々しく照れ合う。

そしてメニュー表を手に取ろうとした際、偶然に触れ合う手と手。

わたしはモンブラン。彼はミルフィーユを注文した。ケーキが届くまで何故か訪れる沈黙にドキドキする。

しばらくして古書の似合う初老のマスターが注文の品をテーブルへと運んできた。

そして彼が注文したミルフィーユを見て『それも美味しそうね』とおねだりしてみる。

『このミルフィーユって十一層らしいけど奇遇だな』と彼は言った。

『どう言う事?』わたしは少しぶりっ子して訊いてみる。

『俺が雫に対して片想いで重ねた年月と同じ年輪なんだ』

『……それは違うよ』

『何が違うんだ?』

『だって蓮、そのミルフィーユは片想いじゃなくて両想いだったから……』



「おいっ、雫! 俺の話聞いてるのか?」

「えっ?」

「えっ、じゃ無いだろ。ボーとして変だったぞ」
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