冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
「そう言えば玲奈もバンドのファンだよね?」
「う、うん」
玲奈は可愛らしげに小さく頷いた。
彼女はバンドのファンと言うよりヒロトなファンであり、恋心を小さな胸に宿している。ずっとヒロトを見て来たはずだ。
「じゃあさー、玲奈ちゃんは何か思い当たる節とかある? ヒロトのダメなところとか」
「ダメなところなんて無いけど……」
彼女は何かを言いかけた。しかし彼女の小さな唇はそれ以上言葉を紡がない。
そこに何時もの強気な玲奈の姿は無い。わたしの隣にいるのは、大好きな人に嫌われる事を恐れる恋する乙女だけだ。
そんな彼女のギャップ萌えにわたしは胸をキュンとさせている。
「何かあるならハッキリ言えよ」
鈍感男は目の前に座る幼気な少女を見てもなお、強い言葉を吐き捨てる。
「あっ、ごめんなさい。……何も無いです」
「さっき何か言いかけただろ?」
「えっと……あの……その」
玲奈は氷の溶けきらないアイスカフェラテの入ったグラスに白く美しい両手を添えた。その手は強張っているかの様に見える。
そして彼女の目線は手元に固定されてしまった。
そして再び訪れる沈黙––––
軽く話題を振っただけなのにシリアスな展開となり、わたしは後悔の海を航海している。
玲奈の気持ちは痛いほど分かる。
ヒロトに指摘すれば嫌われる恐れがある。かと言って、言いかけた言葉を飲み込んだままではこれまた嫌われ兼ねない。行くも地獄。行かぬも地獄なのだ。
「まあー、この話はここまでにしようよ。せっかくの楽しいひと時なんだから。ねっ?」
わたしは無理やり話題の終止符を打った。
「まあー、雫がそう言うならそれでいいよ」
ヒロトは前のめりになっていた身体を背もたれにドスンッとあずけた。
言葉と裏腹に表情は晴れたものでは無いのは一目瞭然だ。
ここはポップな話題にでも切り替えようとした最中、玲奈は少し遅れて決心したのだろうか小さく声を震わした。
「やっぱり! ……私、やっぱり言うね」