冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
玲奈は視線を手元に落としたままだ。クシャクシャになったストローの袋を、丸めたり伸ばしたりしている。

一方、背中を背もたれに預けていたヒロトは、再び前のめりとなった。話を聞く態勢だ。
 
玲奈が一体何を話すのかを考えると、心拍のメトロノームロームは加速度的に運動量を増していく。

反面、聴覚は静けさだけを強調して抽出する。

店内に奏でられているBGMのボリュームが、映画の1シーンを見栄えよく切り撮るために小さくなったように感じたのだ。

「怒ったりしないから言えよ」

先手をヒロトがとった。『怒ったりしないから』ほど、宛にならない台詞は無いだろう。

因みに我が母もこの言葉をよく使う。釣られて白状すれば、直ぐさま雷が落とされるのだ。

わたしは経験的に、はたまた反射的に、油断を誘う撒き餌には飛びつかない。

無論、それはわたしの場合の話であり、客観的に見て一様に当てはまるものでは無い。

お嬢様育ちの玲奈には、わたしのトラウマ的ロジックが該当しなかったようだ。

僅かに表情筋が弛緩し、重くなっていた口を開いたのだ。
< 94 / 98 >

この作品をシェア

pagetop