冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
「ヒロト君のギターは好きなんです」
玲奈は肯定的な前置きを示した。
次に来るのは批判や批評と決まっている。
少しの間を挟み、彼女は話を続けた。
「でも、どの曲を聴いても完璧に弾いていると思う」
「どう言う意味だ? もっと噛み砕いて言ってくれよ」
「えーと、私は小さい頃からピアノを習ってるんだけど、常に譜面通りに弾く事が出来ないの。それは技術的に未熟だからなんだけどね」
話し始めて少しばかり彼女の緊張はほぐれてきたようだ。初めて見る彼女の薄化粧な笑顔。蕭々たる形相を醸し出している。
「完璧に譜面通りに弾く事は難しい。ヒロト君は大分前からそれが出来ている。凄いよね。でもね、それはヒロト君のバンドには、合ってないというか……」
「心が篭ってないって事か?」
「そうじゃないの!」
「坂口は、具体的に俺が何を変えれば良いか分かるのか?」
「……分からない。私はヒロト君たちのレベルにないから」
「そうか……」
「だけど月島君や他のメンバーたちは、同じ楽曲を聴いていても、その日の心境や感情が視えるほどまちまちに変化をつけていると……思う」
玲奈は話にひと段落をつけた。
正直、わたしには何を言っているのか意味不明である。
蓮のバンドを日常的に耳にしているが、これまでヒロトのギターに違和感を感じた事など一度もない。音楽素人には、ギターとベースの音色の差すら分からないのが本音である。
しかしヒロトは、彼女の言葉から確かなものを読み取ったようだ。「なるほど」と、深く納得したのだ。