冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
体育祭の攻防戦
放課後、教室の窓から中庭を覗くと、いつもの様子と雰囲気が違う。


リア充女子たちがダンスの練習に取り掛かっている。


体育祭一週間前となり、期間内は全ての部活動が活動停止となる。


演奏学部のトランペットの音色も、グラウンドから忙しなく発せられる運動部の掛け声も無い。放課後の違和感が、否応なしに学内イベントの近づきを感じさせる。


 それと同時に私の心持ちはズシリと暗雲が立ち込めてくる。運動神経ゼロの人間にとって体育祭とは決して楽しいイベントでは無いのだ。


「そんな所で、何たそがれてるの?」


振向くと運動着姿の森さんだ。


私が何を見ていたのかを気になったのか、彼女も中庭を覗いた。


「応援ダンスの子たち、気合い入ってるね」


「リア充がリア充しているよ」


彼女はリア充女子に触発されたのか、鼻息を荒くして眼に力を宿した。体育祭に向けて一層やる気になっているようだ。


それは森さんに限ってのことでは無い。
やる気メーターなるものが存在するのなら、皆が一定量の水準を超えている。


我が三組でも放課後に、各種目の練習をする事に決まっている。
私はそんなものに付き合う心算は皆無だった。強制ではないからね。


だが、しかしだ。いざ放課後となった今、自分だけ帰れる雰囲気では無い。


塾にも通っていない私には、体育祭の練習を逃れる確固たる理由が無いのだ。


事実、このまま帰宅しても、ダラダラと部屋で録画したアニメを消費するだけだろう。


「そろそろ私たちも行きますか!」


森さんは眼を爛々とさせ、私の手を引いてグラウンドまで足を向けたのだ。


秘密警察に連行される宇宙人となった私は、渋々に嫌嫌と運動場へと強制されたのだ。
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