少女漫画的事柄
これは私の主観であってそこに事実上の根拠があるわけではない。
ただの勘だ。
なんとなく、浮かべる笑顔が偽物っぽく。紡ぐ言葉の一つ一つが演技のように聞こえる。
彼の言葉が、表情が、すべてが、時々ひどく冷たく見えるのだ。
「…鈴?」
「あっ。え、な、なに?」
「なあに、神楽坂くんと隣でもしかして一人静かに浮かれれた?そう、それが正しい華のJKの反応だよ」
そう言うんじゃないけど。と思わず反論したが彼女はすでに聞いておらず教室の扉を開けていた。
胃がずしりと重たかったが、彼が私に必要以上の会話を求めてくるとは考えにくいと考え、次の席替えまで耐えれば済むことだと自分に言い聞かせた。
「ほら、貴方のお隣さん。囲まれてるよ、さすが人気者。てか、顔が良すぎる。いいなあ、鈴は。毎日あのイケメン顔を特等席から拝めるなんて」
「代ろうか?」
「謹んでお断り申し上げます。席の交換はだめって先生が言っていたでしょ?優等生の鈴がまさかそんなことするはずないよね?じゃ、もうすぐSHR始まるから席戻るね」
血も涙もない彼女はさっと身を翻し去って行ってしまった。
いくらただのクラスメートとは言え、みんなの人気者神楽坂玲人の隣に座るだけで気が重い。
椅子を引いて着席するのと同時に、さっそく神楽坂玲人がやってきた。なるべくそちら側を見ないように机の横にカバンをひっかける。
「おはよう、中島さん。今日からよろしくね」
ぎぎぎ、と壊れたブリキ人形のごとく首を軋ませながら右隣りを見る。他の芸能人に引け目を取らないほどの容姿の彼は人懐っこい笑みを浮かべ私を見つめていた。
「あはは、なに。壊れたブリキ人形みたい。中島さんって面白いんだね、もっと早く話しかければよかった。」
矢継ぎ早にそういう彼に私はやっぱり不快感しか覚えなかった。こう、無理やり人のパーソナルスペースに踏み込むような。不快。
それに加え、嘘っぽい笑顔。違和感。
人に好かれるために張り付けたお面みたいな。そんな感じ。
かと言って無視するのは人として最低だと思う。乾いた唇を舐め、なんとか声を絞り出す。
「お、おはよう」
「あはは、挨拶ワンテンポ遅れ。やっぱ面白い」
私はおはようと言っただけなのに何がそんなに面白いのだろう。
無理臭い笑みを浮かべ、疲れないのだろうか。
そう思う私の心が汚いだけなのか、分からない。