少女漫画的事柄
本性
早速数学の教科書とルーズリーフを机に並べシャーペンを走らせる。
音楽を聴きながらの勉強は効率が悪いと科学的に証明されているらしいが、個人差があると思う。
私はお気に入りの歌を聞きながら勉強するほうが集中できるからだ。
今日やったところの復習、次の時間の予習。それに加え、テスト範囲を問題集をまた一問から説きなおす。
xとyだけでは表せない複雑な弧を描くグラフをシンプルに直し座標を導き出す。
これがパズルみたいで面白いと葵に言うと、心底意味が分からないとげんなりした顔で言われた。心外だった。
流れ始めた音楽も5曲めのサビに差し掛かり、勉強よりも歌に集中し始めた時の事だった。
机の端にふ、と人の影が差し込んだ。視線だけそちらに動かす。
そこには、机の中を漁る神楽坂玲人がいた。
いつの間に、そこにいたのだろうか。
ひゅ、と息を飲み込み、思わず身を固くした。
「…」
「…」
音楽のせいで教室に入って来た神楽坂玲人に気づきもしなかった。
引き出しからノートを取り出した神楽坂玲人は無表情でこちらに背中を向ける。
普段あれだけ神楽坂玲人が無言なのはとても怖かったが、イヤフォンをしている人に無理に話しかけるほど彼も無粋ではないのだろうと思いなおす。
最後のサビが終わり、スマホにダウンロードされている音楽が終わった。
静かな教室に、神楽坂玲人の乾いた上靴が床を擦る音だけが痛いぐらいに聞こえた。
「つまんなそうな人生」
イヤフォンでくぐもっていたが、確かにそう聞こえた。
ひゅうと首の後ろに寒気が走り、シャーペンを強く握りしめる。