異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「手っ取り早いかと思って、港の漁師に声かけてきたぜ」


ランチワゴンの窓から外を確認すると、物珍しさからか広場にカイエンスの国の人たちが集まっている。

その中にはランディの言った通り、漁師の格好をした男性が多く見られた。


「さすが、ランディ! お弁当が無駄にならずに済みそうだよ。ありがとう!」


私はランディに笑顔を返すと、さっそくお弁当を売る。

それがありがたいことに大好評で、お弁当も残りひとつになったとき、「おおいっ、飯を出せえ!」という誰かの怒号が聞こえてきた。

何事かと外に出ると、ランチワゴンの前で酔っ払った三十歳くらいの男が酒瓶を片手にお弁当を食べているお客さんに絡んでいる。

見かねたバルドが「俺が行こう」と言って、酔っ払いの前に立ち塞がった。


「悪いが、騒ぐなら家でやれ。人様の迷惑を考えないか」

「うるせえ、どいつもこいつも俺を厄介者払いしやがって、どうせ俺は落ちこぼれだっつうの!」


わけのわからないことを口走り、勝手に怒っている男はバルドの軍服を掴む。

その瞬間、バルドは男の足を払い、その背を膝で押さえつけて地面に伏せさせた。

お弁当を買いに来ていたお客さんたちは恐怖に顔を引きつらせていて、私は慌ててランチワゴンを飛び出す。


「バルド、それくらいにしてあげて! お客さん、怖がってるからっ」

「……ああ、すまない」


バルドが男の上からどくと、代わりに私は彼の目の前にしゃがみ込んだ。

どこも怪我をしていないようでほっとしつつ、地面に腹ばいになったまま項垂れる男に尋ねる。


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