異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「チーズを鍋に入れる発想はなかったな。鶏手羽先の脂がスープによく溶けてて、濃厚なのにさっぱりしてる」


柔らかな鶏手羽先の肉に歯を立てて、ゆっくりと嚙み切ったエドガーは「ん、おいしい」と 私を見て感想をくれる。

お母さんがいなくなったあの家にひとりきりでいたとき、私はお腹が満たされなければ心も満たされないことを知っていたのに食事をとる気力すらなくなっていた。

それはきっと、私の料理を『おいしい』と言ってくれる人がいないからだ。

自分で作った料理を、自分ひとりで食べるだなんて虚しすぎる。

でも、この異世界には『この味付けがいい』だとか、他愛のない会話をして一緒に食事をしてくれる人がいる。

誰かとただ感想を言い合えるだけで、こんなにも幸福なことなのだと今気づいた。


もっと、お母さんやお父さんとの時間を大事にすればよかったな。


そんな後ろ向きな考えが頭をよぎって、すぐにかぶりを振る。


これからは皆と重ねる一日一日を後悔のないように大切にしていこう。


そう心に決めて、私は皆と食事ができる幸せを噛み締めるのだった。




夕飯を食べ終えた私は近くに泉があったので、水浴びをさせてもらうことになった。

女の子ひとりでは危ないからと、エドガーが少し離れたところで番をしてくれている。


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