異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「それで、やらなきゃいけないことを今から片づける!」

「きみは……」


エドガーは数秒固まって、すぐにぷっと吹き出すと小刻みに肩を震わせながら目の端にたまった涙を指先で拭う。


「雪のシンプルな考え方、好きだな。悩んでたのが嘘みたいに軽くなる」


特別な意味があるわけではないのに、〝好き〟の言葉に心臓が静かに跳ねる。

服の上から胸を押さえて、私は「まさかね……」と手のひらに伝わってくる忙しない鼓動に気づかないふりをした。




***

「一面真っ白だね」


フェルネマータに近づくにつれて険しく切り立った氷山がちらほら見え始め、景色は凍てつく銀世界へと変わった。

車内でも吐く息は白く、私はフェルネマータに行く途中の町で買ったローブの中で身を縮こまらせる。

皆が寒さに震える中、エドガーだけは生まれ育った場所だからか顔色を変えずに手袋をつけた手でハンドルを握っていた。

カイエンスを経ってから、五日。

ランチワゴンのタイヤにチェーンをつけて滑らないように対策をしつつ、私たちはようやくフェルネマータのロドンの町にたどり着く。

でも、そこは廃墟のように静まり返っていた。

家々は雪に押し流されて潰れており、真っ白な雪の海に飲み込まれている。


< 152 / 204 >

この作品をシェア

pagetop