異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「お母さん……寒いよお」


目の前を八歳くらいの男の子がおぼつかない足取りで横切り、私はローブを脱ぎながら近づいた。


「これ、よかったら使って!」


腰を落として自分が着ていたローブをその小さな肩にかけてあげると、男の子は虚ろな目で私を見上げる。


「お母さん、知らない?」

「え……? ここにいないの?」


教会内は被災者でごった返しているのだが、敷地も狭いので人を探せないほどではない。


なのに見つけられないのはなぜだろう、と疑問に思っていると白髪の年配の女性が杖をつきながらそばにやってくる。


「この子のお母さんは雪崩に巻き込まれてしまったんだよ。きっともう……っ、かわいそうにねえ。どう説明していいか、私もわからないんだ」


ときどき言葉を詰まらせながら、涙混じりに話してくれたおばあさんに、私はなんて返事をすればいいのかがわからなかった。

教会の中には声を押し殺しながら泣いている人、なにかを諦めたように生気の感じられない目で一点をぼんやりと見つめている人、寒さと空腹からか長椅子の上で丸まるように横になっている人がいる。

子供の肩を抱いて離れていくおばあさんの背中を見送っていると、ロキが私の足元に寄り添うようにして立った。


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