異世界ニコニコ料理番～トリップしたのでお弁当屋を開店します～
「心づもりをしていたって大切な人がいなくなるのは耐え難いほど苦しいのに、それが突然奪われたとしたら、もっとつらいはずよね」

「うん、本当にね……」


お父さんが余命三か月だと知らされたとき、私は時間が許す限り親孝行のつもりで料理を作って食べてもらった。

この三ヶ月があったから、私はお父さんとのお別れの心の準備ができたのだと思う。

でも、お母さんのときは違った。

また明日も会えると思って玄関で送り出したのに、学校から帰ってきて知らされたのはお母さんの死。

あまりにも突然にお別れの時が来てしまって、心の整理がつかないままここまで来てしまった。

今だって胸の痛みは消えずにあるのに、私はお母さんが死んだという事実を受け入れられていない。


「きっと、ここにいる人たちも私と同じなんだ」


悲しみに打ちひしがれるロドンの人たちに自分を重ねながら、私はゆっくりと立ち上がる。


「凍りついた心を溶かせるような、温かいお弁当を皆に食べて欲しい」


雪さえ溶かすような熱い火の塊のようなものが胸に灯るのを感じたとき、頭の中に大切にしまってあった記憶が開花する。




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