異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
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そう、あれはお父さんのお葬式があった日の夜のことだ。
覚悟はしていたはずだったのに、家に帰ってきて玄関にあるお父さんの靴を見た瞬間、涙がぶわっと溢れてきて、その場に泣き崩れたことがあった。
そんな私にお母さんはなにも言わず、静かに部屋に上がると真っ先にキッチンに立って料理を始めた。
『雪、夕ご飯にしましょう!』
明るい声でそう言って、お母さんは私の手を引く。
半ば無理矢理、ダイニングテーブルの席につかされたときは軽く怒りさえ覚えた。
『こんなときに、ご飯なんて食べられるわけないじゃん』
『こんなときだから食べるのよ』
『意味わかんない』
ふいっと顔を背ける私に、お母さんは小さく息を吐き出す。
『お腹は第二の心なの。空腹だとよくないことばっかり考えちゃうし、イライラするわ。だから、悲しい気持ちを塗り替えるくらい幸せな気持ちで満腹にするの。そんな力が料理にはあるの』
お母さんはミトンをつけた手で、ツヤツヤのサーモンパイをテーブルに置く。
パイの中央には食べるのがもったいないほど愛らしい顔をしているパイ生地で作った魚が載っていた。
『ホワイトソースのサーモンパイよ』
『いらない』
『もう、頑固ね。誰に似たのかしら』
お母さんはいっこうに食べようとしない私に焦れて、パイにナイフを入れる。
サクッとした音ともに、中からキノコとほうれん草の入ったホワイトソースが流れてきてパイ生地に絡んだ。
それを見た瞬間、口の中にじわっと唾液がにじみ出てきて、あれだけお腹なんて空いていなかったのにぐうっと音が鳴る。
『ほら雪、熱々のうちに食べちゃいなさい』
お母さんはスプーンを差し出してきた。
それを受け取った私は啖呵を切ってしまった手前、少し気まずくて『いただきます』と小声で言うとホワイトソースによく浸したサーモンパイを口に運ぶ。
ふっくらとしたパイ生地がサクサクと崩れていく歯触りと悲しみを内側から溶かすような温かいホワイトソースのどれもが優しくて、私の目から涙がひとしずくこぼれた。
そう、あれはお父さんのお葬式があった日の夜のことだ。
覚悟はしていたはずだったのに、家に帰ってきて玄関にあるお父さんの靴を見た瞬間、涙がぶわっと溢れてきて、その場に泣き崩れたことがあった。
そんな私にお母さんはなにも言わず、静かに部屋に上がると真っ先にキッチンに立って料理を始めた。
『雪、夕ご飯にしましょう!』
明るい声でそう言って、お母さんは私の手を引く。
半ば無理矢理、ダイニングテーブルの席につかされたときは軽く怒りさえ覚えた。
『こんなときに、ご飯なんて食べられるわけないじゃん』
『こんなときだから食べるのよ』
『意味わかんない』
ふいっと顔を背ける私に、お母さんは小さく息を吐き出す。
『お腹は第二の心なの。空腹だとよくないことばっかり考えちゃうし、イライラするわ。だから、悲しい気持ちを塗り替えるくらい幸せな気持ちで満腹にするの。そんな力が料理にはあるの』
お母さんはミトンをつけた手で、ツヤツヤのサーモンパイをテーブルに置く。
パイの中央には食べるのがもったいないほど愛らしい顔をしているパイ生地で作った魚が載っていた。
『ホワイトソースのサーモンパイよ』
『いらない』
『もう、頑固ね。誰に似たのかしら』
お母さんはいっこうに食べようとしない私に焦れて、パイにナイフを入れる。
サクッとした音ともに、中からキノコとほうれん草の入ったホワイトソースが流れてきてパイ生地に絡んだ。
それを見た瞬間、口の中にじわっと唾液がにじみ出てきて、あれだけお腹なんて空いていなかったのにぐうっと音が鳴る。
『ほら雪、熱々のうちに食べちゃいなさい』
お母さんはスプーンを差し出してきた。
それを受け取った私は啖呵を切ってしまった手前、少し気まずくて『いただきます』と小声で言うとホワイトソースによく浸したサーモンパイを口に運ぶ。
ふっくらとしたパイ生地がサクサクと崩れていく歯触りと悲しみを内側から溶かすような温かいホワイトソースのどれもが優しくて、私の目から涙がひとしずくこぼれた。