異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「皆さん、これはニコニコ弁当屋から皆さんに向けてのエールです。ご飯はお腹だけじゃなくて心も満腹にしてくれるから。つらいときこそなにかを食べて、おいしいって笑ってください。そうしたらいつか、心から元気になれる日が来ます」
──そうだよね、お母さん。
あのときの自分と同じで〝こんなときに不謹慎だ〟と言いたげな町人たちの顔を見回しながら、私は笑顔を向ける。
「ほっこり『サーモンパイ』弁当、召し上がれ!」
私の一声でニコニコ弁当屋の仲間たちがサーモンパイを配っていく。
町民たちが料理から立ち上がる湯気を見て、自然と強張っていた表情を緩めていくのがわかった。
私も教会の隅で膝を抱えて座っていた三十代ぐらいの男性のところにサーモンパイ弁当を運ぶ。
「心も体も温まりますよ」
男性の前にしゃがみ込んでお弁当を差し出したのだが、ふいっと顔を背けられてしまう。
「俺には飯を食べる資格なんてない」
それっきり口を閉ざしている彼を見かねてか、近くにいた同僚の男性が「あ……そいつはな」と言いにくそうに私に説明してくれる。
なんでも、男性は雪崩があったときに仕事で町を出ていたらしく、災害があってから三日後に帰ってくると家ごと奥さんと娘さんが流されたことを知ったのだとか。
それからはずっとこの調子で、自分ひとりだけが生き残ってしまったと責めているらしい。
私は言葉が出なかった。あなたは悪くない、だなんて簡単に無責任なことを口にする勇気もない。
だから私はサーモンパイを持ったまま彼のそばに腰を落として、考えに考えた末にこれだけは伝えようと決める。
──そうだよね、お母さん。
あのときの自分と同じで〝こんなときに不謹慎だ〟と言いたげな町人たちの顔を見回しながら、私は笑顔を向ける。
「ほっこり『サーモンパイ』弁当、召し上がれ!」
私の一声でニコニコ弁当屋の仲間たちがサーモンパイを配っていく。
町民たちが料理から立ち上がる湯気を見て、自然と強張っていた表情を緩めていくのがわかった。
私も教会の隅で膝を抱えて座っていた三十代ぐらいの男性のところにサーモンパイ弁当を運ぶ。
「心も体も温まりますよ」
男性の前にしゃがみ込んでお弁当を差し出したのだが、ふいっと顔を背けられてしまう。
「俺には飯を食べる資格なんてない」
それっきり口を閉ざしている彼を見かねてか、近くにいた同僚の男性が「あ……そいつはな」と言いにくそうに私に説明してくれる。
なんでも、男性は雪崩があったときに仕事で町を出ていたらしく、災害があってから三日後に帰ってくると家ごと奥さんと娘さんが流されたことを知ったのだとか。
それからはずっとこの調子で、自分ひとりだけが生き残ってしまったと責めているらしい。
私は言葉が出なかった。あなたは悪くない、だなんて簡単に無責任なことを口にする勇気もない。
だから私はサーモンパイを持ったまま彼のそばに腰を落として、考えに考えた末にこれだけは伝えようと決める。