異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「いつか、あなたが生き残った意味がわかるときが来るんじゃないかな。今はわからなくても、それを見つけるために生きる。それが目的じゃいけないの?」

「え……?」

「私も両親を病気と事故で亡くしました。天涯孤独になって、生きる意味がわからなくなった。でも、意図せず遠い遠い旅に出ることになって、私はなんとなくだけど自分が生かされた意味を見つけられた気がしています」


自分で作ったサーモンパイを見つめながら、私は大切な人を失った痛みを抱えてでも生きなければならない理由を再確認するように言葉にする。


「私は……つらくても毎日を必死に生きている人たちのために、お母さんのニコニコ弁当を私が受け継いで届けていく。だから、このサーモンパイをあなたに食べてもらうことが私の生きる意味でもあります」


そう言ってお弁当を差し出せば、今度こそ男性は受け取ってくれた。

でも、スプーンを握ったまま動かない男性の手に私は自分の手を重ねる。


「あと、これは最近になって思うようになったんですけど、私はすべてを失ったわけじゃなかったんです」

「どういう意味だ?」


虚ろな目をしていた男性が私の話に興味を示してくれたことに、少しだけ安心する。


「私の中にはお母さんが教えてくれたレシピとお父さんの『おいしい』って言ってくれた言葉と笑顔が残っています。姿形は消えてしまっても、両親の心は私のそばにあるんです。きっと、あなたの大切な人たちの心もあなたに寄り添ってくれているんじゃないかな」


こんな考え方、他の人からしたら悲しい気持ちや大切な人の死から目を逸らしているだけなんじゃないかと言われてしまうのかもしれない。

けれど、エドガーが前に私の元気な姿を見せてあげたほうが天国のお母さんも喜ぶはずだと言ってくれた。

私がそうであるように、大事な人が悲観して生きている姿なんて誰も見たくないはずだ。


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