異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「すぐには無理かもしれないが……俺もきみみたいに前向きになれるんだろうか」


迷子のような目でこちらを見つめてきた男性に、私は笑顔を向ける。


「無理に前向きになる必要はないけど、心がそう思っていなくても『幸せだな』『楽しいな』って自分に魔法をかけるみたいに口に出して、最後に笑うんです。そうすると、いつのまにか心から笑えていたりするんです」

「そうか……」

男性は意を決したように湯気の立つサーモンパイをスプーンですくうと、ふうふうと息を吹きかけてから食べる。

はふはふと口を動かしながら飲み込み、「うまい……」と微かに笑って涙をひとしずく流した。

それを見守っていた同僚の男性は、私に深々と頭を下げてくる。


「いろいろ、ありがとうな。こいつのことも、それから食事のことも」

「私がしたくてしていることですから、お礼なんていいんです」

「だが、こんなに温かくてまともな食事を取ったのは久しぶりだったんだ。食べ物の補給はあっても雪道を通って運ばれてきたからか、パンも肉も凍っていてな。食欲もわかなかったんだよ」


フェルネマータは雪国なので食材が凍ってしまうのは仕方ないけれど、被災者の皆さんはただでさえ防寒具もない、家もないという過酷な状況にいるのだ。

せめて、食事くらいはまともなものを食べさせてあげてほしい。

私はなんとかならないか、仲間たちに相談することにした。



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