異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「エドガー?」


様子がおかしかったので名前を呼ぶと、彼はごくりと皮膚の上からでもわかる大きな喉仏を上下させた。

それから私の首筋に伝った水を手のひらで拭ってくれたのだが、エドガーの手は肌に触れたまま離れていく気配がない。


「出会った頃は守ってあげなきゃいけない妹のように思ってたんだけど、なんでかな。旅を続けてるうちに、ずっと守ってもらってたのは俺のほうだったんだって気づいたんだ」

「……そうかな? 私はずっとエドガーに助けられてばかりだと思ってたよ」

「雪は自分では気づいてないと思うけど、俺だけじゃなくていろんな人の心を救って癒してる。それで最後に、前に進むための一歩を踏み出させてくれる……そんな存在なんだよ」


覆い被さっているエドガーを見上げれば碧の瞳の中に自分の顔が映っていて、嬉しいような落ち着かないような不思議な感覚に襲われる。


「空っぽだった俺に価値を見出してくれたのは雪なんだ。そんなきみに惹かれないはずがない。ひとりの女性として、大事に……」


最後は眠気に負けて聞き取ることができなかった。

瞼を閉じると接着剤でくっつけられたみたいに開けられなくなってしまい、最後までエドガーの言葉を聞きたかったのにそれも叶わなかった。



***


数日後、熱が下がった私は厨房のシェフにかぼちゃ豆腐プリンの作り方を伝授し終わったことを報告しに王妃様のいる王間にやってきた。

するとそこには国王と対峙する先客──エドガーたちの姿があり、私は一カ月ぶりに見る仲間たちに思わず駆け寄る。


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