異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「私のことはロキって呼んでちょうだい。それよりも大変、早く怪我したところを水で洗わないと……」
喋るウサギさん――ロキにようやく慣れてきた頃、私は周りに視線を向ける。
そこで真っ先に目に飛び込んできたのは木に背を預けるようにして座り、瞼を閉じて俯いている鎧と青の軍服を纏った男性だ。
二十代後半くらいで、強面の彼は血も出ていないので古いものだとは思うけれど右目に切られたような傷痕がある。
その足元には見るからに重そうな大剣が転がっていて、ぴくりとも動かない男性に血の気が引いた。
「し、死んでる……?」
絶望的な気持ちで男性に近づいていくと、彼の深緑の髪と揃いの色をしたまつ毛が震えた。
私は希望を見つけたような気持ちで、その肩を揺する。
「起きてっ、こんなところで眠ってたらダメだよ! どこか具合が悪いの? 私の声が聞こえる!?」
「うう……は……が、へ……」
男性は相当体調が優れないのか、途切れ途切れの声で絞り出すようになにかを伝えてくる。
「ごめんなさい、聞き取れなかった。もう一度、聞かせて?」
「腹が減って、動けな……い」
聞き間違いかと思って、私はロキを振り向く。
すると、私の疑問を察してくれたのか、肯定するように首を縦に動かした。
行き倒れてたんだ、紛らわしい! でも、この人が生きていてくれてよかった。
私がほっと息をついたとき、「やっと見つけた!」という声とともに不審者――先ほどの眼鏡の男性が駆け寄ってくる。