異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~


「食材は他にある?」

「いや、戦の最中は干し肉とパンだけだ」

「こんな食事じゃ全然元気になれないよ! 皆さんは絶対に負けられない戦いに挑んでるんでしょう? だったら身体は資本です。しっかり食べて力を蓄えなくちゃ」


バルドさんは「そうは言ってもな……」とわずかに眉尻を下げている。

だが、疲れ切った兵たちの姿を目にしておいて引き下がれない。


「近くに食材を調達できる場所は?」

「ああ、それならエーデの町がいい。バルドさんはここを離れられないだろうから、俺が雪さんに付き添うよ」


そう申し出てくれたのはエドガーさんだ。私はレシピ本とロキをバルドさんに預けて、エドガーさんと一緒に聞きなれないエーデという町へ行くことになった。




「う、わあ……」


森を抜けて二十分ほど歩いた先にあったのは、レンガ調の道に色彩豊かな花々が飾られた花壇。

通行人は羊毛製のワンピースに頭巾のようなものを被っていて、行き交う馬車や燭台が中世にタイムスリップしたような街並みだった。

ここには私の知ってる食べ物もあるし、言葉も通じる。

でも、エーデの町もパンターニュなんて国も私のいた世界にはない。

信じられないけれど、私は異世界に来てしまったのかもしれない。
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