本日は性転ナリ。
チャイムが初めての休み時間を告げると『衣瑠ちゃーん、調子どう?』と俺が向かうより先に莉結がやってきた。

いつもであれば莉結の周りには自然と人が集まり、俺の周辺と比較すると完全なる明暗のコントラストが浮かび上がる。
例えるなら真夏のビルに突き刺さる光と、その陰のようなものだ。

そして最悪な事に、今日は俺の周りでその現象が起き始めていた。

『ねえねえ、今までどこ住んでたの? 何で瑠衣くんとは一緒に住んでなかったの?』
『L○NEのID交換しよーっ』
『部活どこ入るの?』

『ちょっとみんなやめてっ! 衣瑠はこういうのは……』

……やめてくれ

頼むから……

"""コッチオイデッ…"""

「やめて……」

頭がぐるぐると揺れ始めたかと思うと目の前が闇に包まれる……そして気がつくと辺りは静まり返っていて、心配そうに俺を覗き込む莉結の顔が目に映った。

『瑠衣……大丈夫?』

「ここは……保健室?」

『うん、先生に言ったら看病してていいって』

「そっか。ごめん、俺やっぱり無理だ、あぁゆーの」

『うん。いいんだよ、無理しないで。私もごめんね。』

あれは幼い時の記憶。

幼いと言っても小五の時だけど……思い返すだけで吐きそうだ。

そんな嫌な記憶が薄っすらと浮かびあがるのを抑えるように俺はゆっくりと瞼を閉じた。

『ねえ衣瑠』

「莉結、二人の時はその呼び方……」

その時だった。
莉結と目が合い、一瞬時間が止まってしまったような錯覚に陥る。

そしてそれをきっかけに心臓の鼓動が段々と音を立てて大きくなっていく。

「莉……結?」

『え? 冗談冗談っ、ビックリした? あははは……それじゃぁ私行くねっ』

慌てて保健室を出て行ってしまった莉結の背を見つめながら、俺の身体に残る莉結の体温を確かめる。
なにがどうなってしまっているのか……俺には理解できなかった。


あんな莉結の顔は見た事が無かった。
でも莉結自身も冗談と言っていたし、女同士だったら全然普通なのかもな、と考えすぎなだけだと思う事にした。

だって、前にも"男子とかまっったく興味ないし私は恋なんて無関係かなぁ? 勿論、瑠衣にもそういう興味は無いから安心してね!"
なんて話をしたばかりなんだ。

俺はそんな複雑な感情に苛まれながら保健室を後にすると、莉結の後を追って教室へと向かった。
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