どら焼きにホイップを添えて
◇どら焼きは戸惑う
「馬鹿野郎、やり直しだ!」
老舗和菓子店、道重堂の銀座本店。その厨房には、今日も俺、倉田尚人(くらたなおと)の罵声が飛ぶ。
和菓子職人ひと筋でがむしゃらに生きてきた俺は、十年ほど前から職人たちを束ねる〝親方〟という立場になり、若手の育成に力を注いでいるのだ。
しかし、最近の若い奴ときたら……。
「親方、〝馬鹿野郎〟はパワハラです。あと怒鳴るのやめてください」
「ああん? お前な、そんなこと言い返してる暇あんだったら、手を動かせ手を」
「だからその言い方を……」
「っだぁーっ、もう! 貸せ! こうやるんだ!」
蒸かした栗をちまちま裏ごししていた若手から道具を奪い、見本を見せる。
「ちょっと待ってください! スマホ! 動画撮ります!」
「お前な、んなもん厨房に持ち込むんじゃね――」
俺の言葉を無視するように、若手のスマホから『ピロリン♪』と腹の立つ音がする。どうやら本当に動画を撮りはじめたらしい。
……ああそうかよ。こんなことに目くじら立てる俺が時代遅れだって言いたいんだな。
わかったわかった。撮影は許してやるが、その動画見て死ぬほど家で練習しろよな。
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