どら焼きにホイップを添えて

「お願いします」

助手席に乗り込むと、車内には大人っぽいカーフレグランスの香りが漂っていて、ドキドキしてきた。

……今日は積極的に頑張ろうと決めたけれど、実は私だって恋愛経験はゼロ。

修行中は洋菓子が恋人だって言い聞かせて恋愛から遠ざかっていたけれど、こんな年上の男性にアプローチするには、やっぱりそれなりの経験が必要だったんじゃ……?

そんなことを思い不安にさいなまれる私に、運転席から「寒くない?」と優しい声がかけられてハッと我に返る。

「あっ、はい! 暖房も効いてますし、大丈夫です!」

「よし。じゃあ行こうか」

その言葉を合図に、倉田さんは車を発進させた。

いつもは和菓子を作っている倉田さんの職人の手が、ハンドルやギアを操作する姿もまたいいなぁ……。私、やっぱり好きだ。この人が。

「あのー……あまり見られると運転しにくいな」

遠慮なく熱い視線を送っていたら、倉田さんが照れくさそうに頬を掻いて苦笑する。

「ダメですか? 運転してる倉田さん、カッコいいのでずっと見てたいんですけど」

「カッコいいって……あのね、あまりオジサンをからかわないでください」

「からかってません! 本心です! ……じゃなきゃデートに誘ったりなんかしません」



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