どら焼きにホイップを添えて
素直な気持ちを疑われ、私は頬を膨らませる。
倉田さんは私のリスみたいな顔をちらりと一瞥すると「本心ってのも弱るんだよなぁ……」と独り言のように呟く。
けれど私はあまり深く考えずに、ドライブ中はずっとお菓子のことや、つらかった修行時代の話をした。
話の内容的にあまり色っぽい雰囲気にはならなかったけれど、言葉を交わすうちに次第に倉田さんが心を開いてくれているのを感じていた。
*
午前十一時ごろ川越に着き、適当な駐車場に車を停めると、さっそく観光センターでガイドマップを入手した。倉田さんがそれを開き、私も一緒に覗き込む。
「なるほど……この一番街通りという場所に、昔ながらの建物が並んでいるんですね」
「まずはこの陶器店を目指そう。陶芸体験を予約してある」
「すごい! うれしい! 陶芸できるんですか?」
パッと目を輝かせた私に、倉田さんも柔らかく微笑んだ。
「毬亜さんなら喜んでくれると思った。菓子職人には、菓子そのものはもちろん器もおなじくらい大事ですからね」
「はい! 私の専門は洋菓子ですが、素敵な陶器のお皿にケーキを乗せるのも、意外と合うんですよ。ああ、職人の血が騒ぐ……」
「よし。じゃあ歩こうか」
私たちは、のんびりと二人並んで歩き出した。倉田さんは私よりも十五センチくらい背が高くて、ときどき私を見下ろしては優しく笑いかけてくれる。