どら焼きにホイップを添えて
◇どら焼きにホイップを添えて
あっという間に恋仲になった俺と毬亜さんは、春先から同棲を始めた。
そのことに一番衝撃を受けていたのは、彼女の実の兄、vanillaの平川社長……ではなく、なぜか我らが道重堂の社長、道重彰の方で。
『兄貴分と妹分が同棲……別に禁断ではないはずなのに、ショックだ』
そう言って複雑そうな顔をする彰を、平川社長が慰めていた。
俺も彼女も互いに仕事が忙しくすれ違うこともあるが、ある意味同業者である俺たちの心の向く先は、いつでも同じ方向。なので、互いを尊重し合ってうまくやっていると思う。
今では「毬亜」「尚人さん」と呼び合う仲になり、彼女との甘酸っぱい毎日は、遅すぎる青春を味わっている気分だ。
偶然休みが合う日にはデートに出かけることもあるが、俺も彼女もやはり職業病がなかなか抜けなくて、菓子の試作に時間を費やすこともしばしば。
「毬亜、なにを作ってるんだ?」
「んー? どら焼きだよ。私たちの作ったあのお皿に合うような」
今日も、朝から毬亜は菓子作りをしているようだ。
キッチンに立つ彼女の背後に近づき小さな肩に顎を乗せると、フライパンから漂うどら焼き生地の甘い香りに年甲斐もなく胸が弾んだ。
斜め後ろにあるダイニングテーブルには、先日ふたりで川越の陶器店に出向いて受け取った、初デートの思い出の詰まった平皿が二つ並んでいて。
彼女と暮らし始めてから手に入れたあたたかな朝の光景に、しみじみ幸せを感じる。