どら焼きにホイップを添えて
「ああ、そんな人はいません。毎日、仕事仕事ですから。恥ずかしながら、女性と交際したこと自体、一度もありません」
……こうして誰かに話すと、なんだか寂しい人生だな。
俺の恋人は和菓子。若いころは堂々とそんなことを言ってみたりしたものだが。
「じゃあ、私にもチャンスありますよね!」
毬亜さんがぱちんと両手を合わせてうれしそうに微笑む。
「えっ?」
「今度デートしましょう、倉田さん! 約束です!」
デート……だって? 和菓子ひと筋のこの俺が? この親子ほど年の離れた女性と?
あまりの衝撃に呆然としてしまうが、毬亜さんはさっそくバッグからスマホを取り出し、「連絡先、教えてください」と言いながら小首をかしげて笑う。
……か、可愛い。いや、これはその、犬とか猫とか子どもとかに感じる〝可愛い〟だけどな?
胸の内で誰にともなく言い訳し、俺は戸惑いつつも若い毬亜さんと連絡先を交換したのだった。