どら焼きにホイップを添えて
◆ホイップはときめく
平川毬亜、二十八歳。ものすごく年上の男性に恋をしました。
きっかけは、先日行われたパリでのお菓子イベント。私は道重堂の親方とのお菓子作りの勝負に完敗し、我慢しなきゃと思うのについ泣いてしまった。
その後、控室で私服に着替え、トイレで顔を洗おうとイベント会場の通路を歩いていた時。偶然すれ違った二人の道重堂の社員たちが、私のことを噂していた。
「可愛かったよな~、vanillaのパティシエ」
「親方、手加減してやりゃいいのに」
そんな声が聞こえて、私はすれ違いざまに思わずぴたりと足を止めた。私服姿だったので、彼らは私の存在に気づかなかったらしく、歩きながら話を続ける。
「パティシエの世界って厳しいんだろ? あんな細い腕でどうやって修行したんだろうな」
「あの可愛さなら、愛想振りまいときゃオッケーじゃん?」
「だな。もしくは師匠的な人に枕営業とか」
「えー? それはないだろ。あの子がそんな女だったらなんかショック」
なにこいつら……由緒ある道重堂の社員が、なんて低俗な会話をしているの? 完全に女性蔑視じゃない。