どら焼きにホイップを添えて
無視しようかとも思ったけれど、勝負に負けた悔しさもあり、彼らに喧嘩を売ってやろうとぎゅっと拳を握り締めたその時だった。
「馬鹿野郎、職人の世界は、んな甘くねえんだよ」
社員たちの方から鋭い声が聞こえ、振り向くと、彼らの前に立ちはだかっていたのは私と勝負をした道重堂の和菓子職人、倉田さんだった。
「彼女の菓子作る姿、見てなかったのか? うちの若手なんかよりよっぽど真剣に、魂を込めてやっていた。それを愛想だの枕だの、お前ら職人を何だと思ってる。それでも道重堂の社員か!」
倉田さん……。私の言いたかったことを、そのまま……。
社員たちを睨みつける倉田さんの姿は、ヒーローのように輝いて見えた。
「す、すいません!」
親方の一喝で、社員たちはすっかり大人しくなりそそくさとその場を立ち去ってしまう。そして私はというと……。
「あの!」
思わず倉田さんに声をかけ、駆け寄ってぺこりと頭を下げた。
「かばっていただいて、ありがとうございました」
「……かばう? ええと、あなたは」
どうやら倉田さんも、私服姿の私に気づいていないらしい。
私がクスっと笑って「平川毬亜です」と名乗ると、彼はものすごく恐縮した。