恋なんて、しないはずだった
「別に話せなんて言わねぇよ」



ポンっとあたしの頭を撫でる。



「.......じゃあ、なに?」


「理由はわかんねぇけど、お前は何かに怯えてる。そう俺には見える」


「うん.......」



確かに怯えてる。
誰かに関わろうとすると、その瞬間に前の学校でのことがフラッシュバックしてしまう。



「あとさ、彼氏いんだろ?それ.......」



あたしの左指にはめられている指輪をさす。



「いないよ、彼氏なんて」



あたしは全てを捨ててこの街に来た。
大好きだった彼との思い出を捨てられなくて、この指輪はずっとここについてる。



「ふーん。彼氏いるなら、なんでこんなんなるまで放っておくのかなって思ったけど、いないなら遠慮なくいくな」



ふたたびあたしの頭に触れる。



「遠慮なく?」


「過去になにがあったかは、知らないけど、俺は俺のやり方でお前と仲良くなるからな」


「.......杉浦くん」


「覚悟しておけよ」



あたしの腕を引っ張って、立たせて、そのまま手を引いて屋上を出る。

少し、ほんの少しだけ「仲良くなる」と言われた言葉は嬉しかった。

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