恋なんて、しないはずだった
ここにやってきた日から、誰かと話すことなんてなかなかなかったから。
だから、声を張ることもしばらくなかった。
最後に大きな声をだしたのは、いつだったろう。
きっと、記憶にないほど前だったのかもしれない。



「碧ちゃん!って呼んでもいいかな?」



黒髪のポニーテールを高い位置で結んで、いつも元気、みんなに「アズ」と呼ばれている水戸梓沙(みとあずさ)ちゃん。



「あ、うん.......」



あたしみたいにクラスで浮いていて、誰とも話さないようなヤツ、水戸さんは嫌じゃないのだろうか。



「あたしのこともアズでいいよ!」


「あ.......いや、水戸さんって呼びます」


「そっかー!わかった!」



笑顔を崩すこともなく、あたしの言った言葉も受け止める。

こんなクラスの腫れ物のあたしなのに、せっかくの好意を無駄にしているのに、彼女は何も気にしていない様子だ。
でも、彼女だって、裏では何を考えているのかわからない。

前の学校の友達だってそうだった。
だから、簡単に人は信じない。
信じないなら、関わらない方がいい。
そう決めて、あたしはここにやってきた。

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