恋なんて、しないはずだった
彼に告白されて「返事はまだしないで欲しい」って言われて。
でも、想ってくれたのことは嬉しくて「嬉しい」と素直に言ったことが彼をああさせてしまった。

あたしには、好きな人が別にいたし、その後その人と付き合うことになったときに、千景くんは豹変した。
「俺のことが好きだったはずなのに」と。



「あいつが、原因で転校してきたのか?」


「ううん、千景くんだけじゃないよ」


「お前も色々と大変なんだな」



ふうっとため息をひとつ。



「碧がたくさん傷ついて来たことは俺にもわかる」


「.......そんな、傷なんて」



あたしには、そんな権利ないから。



「俺なら碧のこと傷つけないから」


「.......っ、杉浦くん」



あたしはいままでにこんなに心の優しい人に会ったことが、あっただろうか。
優しくて、全部を包み込んでくれるような。
こんなに暖かい人にあったことは、なかったかもしれない。

この街にきてから、頑なに人と関わることを避けてきた気持ちが溶けているのを感じる。

あたしに、誰かと関わる権利なんてあるのだろうか。
また、誰かと関わることを選んでもいいのだろうか。

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