恋なんて、しないはずだった
「ところでさ、お前ん家行っていい?」


「は?なんで?」


「お前さ、自分の足が震えてんのわかってる?」


「.......あ、本当だ」



大我に言われるまで、まったく気づいてなかった。



「安心したと言っても、体はあの恐怖を忘れてねーんだ。一緒にいたいんだよ、俺が」


「んー、でもあたしの家は.......ちょっとなぁ」



見て欲しくないものがたくさんある。
まだ言えないことがそこにはたくさんあるから。



「じゃあ、俺ん家こい。明日は休みだし、泊まってけ」


「ええー!?だって、大我は実家じゃん」


「大丈夫だよ。部屋もあるし、いいから着いてこい」



地面に落ちていたあたしのカバンを拾う大我はもう、有無なんて言わせる気がないってわかってる。

あたしは、この大我の強引な優しさに救われてきた。



「わかった。じゃあ、お邪魔しようかな」


「おう、そう来なくちゃ」



あたしの言葉に満面な笑みを浮かべて歩き始める。



「ほら、行くぞ」



そう伸ばす大我の手を取って、あたしも一緒に歩く。

この手を離せる日はきっとこないな、なんて思いながら。

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